第68回 日本豚病研究会研究集会

第68回 日本豚病研究会研究集会の概要

日 時:平成17年10月17日(月) 13:00~17:00
場 所:研究交流センター(つくば市竹園2丁目20-5)

◆◆◆◆◆
子豚下痢便からの病原微生物の検出成績
勝田 賢1)、河本麻理子1)、川嶌健司1)、恒光 裕2)
(1)動衛研・七戸、2)動衛研)
 2001年~2003年に7県16農場から収集した哺乳豚153頭、離乳豚116頭の下痢便を供試した。哺乳豚ではロタウイルス(Rota)が67.3%と最も高率に検出された。離乳豚では、Rota(71.7%)、病原性大腸菌(51.7%)およびサッポロウイルス(56.4%)が高率に検出された。哺乳豚から検出されたRotaの87.5%が単一血清群であったが、離乳豚では、Rota陽性豚の51.6%から複数の血清群が同時に検出された。従来、Rotaによる下痢は2~3週齢以降に好発すると考えられていたが、新生豚においても高率にRota が検出された。離乳豚ではRotaを中心として、病原体が2重~4重に感染している下痢が半数近く認められ、これらが病態を複雑にしていると考えられる。

下痢を伴った子豚の浮腫病
末吉益雄(宮崎大学)
 豚の浮腫病は発生・短期間自然終息から、一旦発生すると長期持続する発生形態の傾向にある。九州の養豚場3戸において、1997年~2003年に30~75日齢の子豚が計約10,000頭死亡した。月間の死亡率は最高25%であった。それらの農場では、事故率は低くなったものの、未だに、終息していない。対策を困難にしている点として、以下のことが挙げられる。(1)抗菌剤の治療投与が難しい。(2)原因菌が多剤耐性化傾向にある。(3)現場での生菌剤の効果判定が難しい。(4)定型的な「浮腫病」ではなく、下痢を主徴とするタイプが現れている。(5)保菌母豚の摘発が難しい。(6)in vivoでの感染実験が難しい。

群馬県におけるオーエスキー病清浄化への取り組み
瀧澤勝敏 (群馬県家畜衛生研究所)
 群馬県では平成3年にオーエスキー病防疫対策要領が制定され、ワクチン接種を柱とした対策に取り組んできた。しかしながら、現在でも清浄化に至った地区はほとんどないのが現状であり、確実に効果が発揮できるワクチン接種プログラムの推進が重要課題となっている。
 近年、県内1地区において農協、自衛防指定獣医師との連携を強化して地区内一体の指導をした結果、ワクチン接種率の向上、プログラムの共通化および野外抗体陽性農場の減少がみられた。この成果を元に平成16年度以降、周辺各地区でのワクチン接種指導を精力的に行っている。これによって養豚農家ではワクチン接種意欲の向上がみられ、地区内で連携して清浄化を目指す気運が高まっている。

PRRSが侵入した種豚場のオールアウトによらない清浄化
細川みえ (山形県庄内家畜保健衛生所)
 平成16年6月、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)陰性種豚場において陽性豚を摘発。浸潤検査では、繁殖舎(6/258)、育成舎(141/412)陽性。清浄化は、生産フローに沿ったデポピュレーションにより、豚舎ごとの空舎期間を設け、消毒と清浄豚導入を順次行って実施。具体的には (1)繁殖舎の陽性豚とう汰、(2)子豚出荷と肥育豚の早期出荷、(3)育成舎~肥育舎を順に空舎化し消毒、(4)陰性豚の順次導入、(5)清浄性確認検査等を実施。生産フローの最上流である繁殖舎の汚染を最小限に抑え、作業管理動線の厳守により、同年12月に陽性豚の排除を完了。モニタリングの拡充・作業管理マニュアルの改善などにより再発防止に努める。

茨城県における豚サイトメガロウイルス病の発生事例
赤上正貴 (茨城県県北家畜保健衛生所)
 豚サイトメガロウイルス(PCMV)病は,移行抗体を持たない新生豚ないし哺乳豚が鼻炎を主徴とする呼吸器症状を示し,鼻粘膜腺上皮細胞に大型好塩基性核内封入体が認められ,封入体鼻炎とも呼ばれる。
 茨城県では,平成15年1月にSPF導入母豚から生まれた10日齢の哺乳豚で典型的な封入体鼻炎の発生があった。また,平成12年及び平成17年の2度にわたり,神経症状を呈した離乳豚でPCMVが関与したと思われる好塩基性核内封入体を伴う非化膿性脳炎及び重度脳軟化が認められた。
 ヒトでは,日和見感染あるいは胎児感染によるCMV脳炎が報告されているが,豚ではPCMVによる脳炎に関する報告は無い。
 今回,これら3症例のPCMV病について病理学的に検討したので,その概要を報告する。

平成17年度日本豚病研究会総会及び第67回研究集会

平成17年度日本豚病研究会総会
及び 第67回研究集会の概要

日 時:平成17年5月20日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)
定期総会
日本豚病研究会第13回藤崎優次郎賞 授賞式
受賞記念講演
演題
◆◆◆◆◆
鹿児島県で確認された豚コレラ疑似患畜事例
北野良夫1)、轟木淳一2)、山下静馬3)
(1)鹿児島県農政部畜産課、2)肝属家畜保健衛生所、3)北薩家畜保健衛生所)
  2004年3月~9月、5事例の「豚コレラ疑似患畜」が確認され、約3,800頭が法に基づき殺処分された。
 発生原因は、分離ウイルスの性状等から未承認豚コレラワクチンの接種に起因するものとされた。一連の発生事例では、動物用医薬品の適正な使用、まん延防止対策、地域ぐるみの自衛防疫の推進、適切な飼養衛生管理の実施などの課題がみられた。また、豚コレラワクチンの使用による抗体陽性豚の存在は、清浄性確認検査など、防疫上大きな障害となった。
 そのため、今後の家畜防疫の推進に資するため、専門家からなる「豚コレラ疑似患畜確認事例検討チーム」を設置し、一連の発生事例について検証を行い、2005年3月、その報告書がとりまとめられた。

インフルエンザウイルスの生態
喜田 宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
 家禽、ブタ、ウマそしてヒトの新型インフルエンザは、何れもインフルエンザAウイルス感染症である。家禽、家畜、野生鳥獣とヒトのインフルエンザAウイルスの遺伝子は、そのすべてがカモの腸内ウイルスに由来する。すなわち、インフルエンザは典型的な人獣共通感染症である。したがって、当面、インフルエンザを根絶することはできない。家禽とブタの感染を早期に摘発し、的確に対応することにより、被害を最小限にくい止めるとともに、ヒトの健康と食の安全を守ることがインフルエンザ対策の基本である。ヒトの新型インフルエンザもまた、グローバルサーベイランスを軸とする先回り戦略によって、はじめて克服することができる。

種雌豚の深部腟内電気抵抗性(VER)を指標とした繁殖機能の判定と利用技術
伊東正吾(麻布大学獣医学部内科学第一研究室)
 豚は牛や馬と異なり、卵巣所見を掌握して繁殖機能を判定する臨床的機会は少ない。市販の簡易な機器を利用し、生産現場で利用できる技術としてVER測定による卵巣機能を診断する方法を検討し、発情周期の動態、授精適期や妊娠診断における有用性、ならびに発情異常の鑑定への応用について若干の成果を得ている。
 (1) 発情周期におけるVERは、周排卵期では一時的に低下し、発情開始の前日または2日前に最低値を示すことを認めた。(2) 授精時期の判定では、Day2における受胎率(83.3%)が対照区(85.7%)とほぼ同等であり、他の区(77.8%、 71.4%)は低下する傾向であった。(3) VER値を指標とした妊娠鑑定は、妊娠日齢19日で有意に判定できることを認めた。(4) 鈍性発情もしくは発情徴候不明瞭豚において、VERの測定により卵巣機能を推定できた。また、2頭の母豚で授精時期を判断し授精したところ、2頭とも分娩に至り、産子数は10頭と9頭であった。

第66回日本豚病研究会研究集会

第66回日本豚病研究会研究集会の概要

日 時:平成16年10月15日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)

◆◆◆◆◆
食肉衛生検査データの活用
宮川 均(群馬県農業局畜産課)
 県内と畜場における豚の検査頭数は平成15年度は695,823頭(H14:709,632頭)であり、その内、351,313頭(H14:324,495頭(45.7%))がと畜検査結果に基づき、心臓や肝臓等の部分廃棄等の処分が行われている。この食肉衛生検査データを家畜衛生分野にフィードバックして有効に活用することは、衛生管理技術の改善や経営の向上に有効であるが、そのデータの利用は必ずしも十分とは言えない現状であり、どのようなデータが生産農家に有益であるか詳細に検討されていない。食肉検査データは、と殺時点における病変を把握するものであり、それのみで農場全体の衛生状態を把握するには限界がある。肉豚は出荷までの期間が約6か月と比較的短いが、農場内における疾病感染動向や出荷豚全頭の状態を把握できることから、衛生管理を推進する上で有効であり、さらにこの食肉検査データに農場の臨床検査や血清学的検査および細菌検査等を組み合わせることにより一層の指導効果が期待できると考えられる。
 一部の県では食肉検査データを有効に活用する事業等に取り組んでいるが、本県としても、診療獣医師や養豚関係技術者等との連携を強化し、と畜場サーベイランス(内臓検査)を養豚農家指導に有効活用したい。

新潟県内における豚増殖性腸炎の浸潤状況調査成績
中林 大、村山修吾(新潟県中央家畜保健衛生所)
 子豚が発育不良となる豚増殖性腸炎(PPE)慢性型は近年多発傾向にあり、経済的損失が大きい。間接蛍光抗体法(IFA)による抗体検査および糞便からのLawsonia intracellularis(Li)遺伝子検出をNested-PCR法により実施。疫学調査も併せて実施。平成15年現在、32農場中29農場(90.6%)、96頭中74頭(77.1%)が陽性で広く浸潤。遡り調査では昭和60年までは陰性であったが、平成元年に4戸(44.4%)、平成5年に2戸(22.2%)と緩やかに浸潤し、平成10年には8戸(88.8%)とすでに高い陽性率。農場内抗体推移調査では肥育豚では4か月齢で発生農場と未発生農場の区分なく全農場が陽転し、肥育前期の感染が示唆。Li遺伝子検出は病性鑑定豚から検出されたが、感染パターン調査豚84頭からは全例陰性。抗体検査は農場の浸潤調査に、PCRはPPEの病性鑑定に応用できるものと判断。PPEはすでに広く浸潤しており、発症要因が重なるといつでも発病する危険性があり、日常の衛生管理の徹底が重要。

豚増殖性腸炎とその起因菌に関する最近の知見
○長井伸也、小山智洋(日本生物科学研究所)
 豚増殖性腸炎(PPE)は、偏性細胞寄生性細菌Lawsonia intracellularisを原因とし、遠位小腸及び近位大腸の粘膜の過形成による肥厚を特徴とする疾病である。本病は、肥育末期あるいは繁殖候補豚に発生し出血性下痢を伴って急死する急性型(増殖性出血性腸炎:PHEとも呼ばれる)と、離乳期から肥育期にかけ軟便や下痢が持続し増体が低下する慢性型(腸腺腫症:PIAとも呼ばれる)の二つの病型に分類される。本病は世界各国の養豚地帯で発生し、わが国においても90%以上の農場が本菌に汚染されているとされる。L. intracellularisは1995年に命名された新菌種で、その分離は極めて困難であり、未だ人工培地での増殖には成功していない。このため、世界の分離株数は15に達せず、本菌の性状には病原性を含めて不明な点が多い。ここでは最近報告された本菌の細菌学的性状とともに、本病の診断法および海外で実用化されているワクチンについてもあわせて述べたい。

と畜場出荷豚からのインフルエンザウイルス分離状況
御村宗人(埼玉県中央家畜保健衛生所)
 平成14年度及び15年度の2年間、主に冬期(12月~3月)に、県内農場と畜場出荷豚から鼻腔スワブを採取し、インフルエンザウイルスの分離を行った。ウイルス分離はMDCK細胞を用い、常法により実施した。14年度は50農場980検体のうち6農場33検体、15年度は41農場765検体のうち3農場22検体から、A型インフルエンザウイルスが分離された。分離ウイルスはRT-PCR法により、全てH1N2亜型であることが確認された。

ヒトと動物に見つかるE型肝炎ウイルス
池田秀利(動物衛生研究所)
 ヒトのE型肝炎はE型肝炎ウイルス(HEV)の感染によって起こる肝炎である。発展途上国では発生が散発的、時には大流行し、急性ウイルス性肝炎の半数を超す国が多数ある。感染経路はウイルスに汚染された水道、井戸水、食物を介した経口感染が主である。一方、日本を含む先進国においては、ウイルス性肝炎の中でE型肝炎の占める割合は他のA,B, C型肝炎ウイルスに比べて少ない。しかし、先進国で今問題になっているのは、HEVの感染経路について不明なケースが多いこと、一部は食肉を介した人獣共通感染症である可能性を示す事例が増えていることである。色々な動物がこのウイルスに対する抗体を持ち、HEVないし近縁ウイルスに感染しているだろうと考えられている。特に養豚は世界中で抗E型肝炎ウイルス抗体を高濃度、高頻度に持ち、さらに豚から採れるウイルス遺伝子はヒトのウイルスと区別出来ないくらい似ている。このように公衆衛生として問題となっているE型肝炎ウイルスの研究の現状を述べる。

平成16年度日本豚病研究会総会及び第65回研究集会の概要

日 時:平成16年5月21日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)
定期総会
日本豚病研究会第12回藤崎優次郎賞 授賞式
受賞記念講演
演題
◆◆◆◆◆
オーエスキー病の清浄化に関する海外事例の紹介
村上洋介(動物衛生研究所 海外病研究部)
 わが国におけるオーエスキー病の対策は、1981年の侵入当初は摘発淘汰を基本とし、全国的な蔓延の兆しを受けた1991年以降は、新防疫対策要領に基づき清浄化という明確な目標を持った施策に仕切直しされて現在に至っている。しかし、北米や欧州の養豚国が次々に清浄化を達成しつつあるのに対して、初発から四半世紀が過ぎようとしているにもかかわらず、わが国では本病の清浄化の目途はみえず、ワクチン接種や侵入防止等の防疫に係る累積経費は巨額に及んでいる。本病の清浄化に必要な技術論はすでに確立されていることから、海外における清浄化事例を紹介し本病の清浄化推進のための話題提供とする。

オーエスキー病対策の今後
小倉弘明(農林水産省消費・安全局衛生管理課)
 本病については、平成3年度、発生状況等に応じて地域を区分し、清浄化を推進する防疫対策要領が制定され、以来、多額の補助金を投入しつつ防疫対策が続けられている。本病は、主要養豚地帯に浸潤しているものの、浸潤の拡大はみられず、また、発生も少数に止まっている。一方で、当初の目的である清浄化への進展の兆しはなく、補助金の面からは、その事業効果が問われている。養豚分野では、豚コレラ撲滅事業を経験し、生産者のコンセンサスつくりの難しさを経験した。豚コレラより技術的に難度が高く、関係者一体となった取組みが必要といわれる本病の清浄化について、今後どのような方向に進むべきか、議論を尽くすべき時がきている。

デンマークにおける成長促進剤としての抗菌性飼料添加物中止の影響について
小林秀樹(動物衛生研究所 臨床疫学研究室)
 わが国においても一部の養豚家が無薬あるいはそれに近い条件で養豚を試みていると聞く。国をあげて無薬(無抗菌剤)養豚を目指しているのが北欧の国々である。スウェーデンやフィンランドなどは1980年代後半から抗菌性成長促進物質(AGP)を中止し、抗菌剤は治療目的としてのみ使用している。デンマークはそれに遅れること10年、1998年から鶏の、1999年からは豚のAGPを中止した。今年で6年目をむかえる。デンマークでの特徴は、AGPを中止するにあたり、その影響を莫大なデータをもって多角的に解析したことである。北欧と日本とは自然環境、養豚環境、国家の規模、畜産業に対する国民意識そしてEUの動物福祉法の遵守など相違点が多い。もし日本でも追従するなら前もって種々の検証が必要であろう。しかしながら、デンマークでの試みから得られた知見はわが国の養豚の将来に参考となるものもあると感じ紹介することにした。

第1回アジア養豚獣医学会参加報告
石川 弘道(サミット動物病院)
 1990年代後半から、口蹄疫、ニパウイルス感染症など、アジア地域を震源とする重要な家畜の伝染病が大きな問題となってきている。最近ではトリインフルエンザが猛威をふるい、深刻な状態が続いている。このように畜産経営を脅かす疾病は国境を関係なく広がっており、地域の伝染性疾病をコントロールするためには、アジアという地域での情報交換が重要との認識の下、アジア養豚獣医学会(APVS)が設立された。第1回APVSは2003年9月21日から23日の3日間、韓国のソウルで開催された。参加国は日本、韓国、タイ、フィリピン、中国、ベトナム、台湾、マレーシア、シンガポールのアジア諸国以外に、アメリカやフランス、ベルギー、ロシアなどヨーロッパ諸国からの参加も得られ、盛大な学会となった。主な発表演題はサーコウイルス、PRRS、PRDC、豚コレラ、口蹄疫、ニパウイルスなど多岐にわたった。なお本学会は隔年で開催されることが決まっており、次回は2005年2月にフィリピンでの開催が、2007年には中国での開催がそれぞれ決定している。

第64回日本豚病研究会研究集会

第64回日本豚病研究会研究集会の概要
日 時:平成15年10月10日(金)13:00~17:00
場 所:財団法人北里研究所 大会議室

豚繁殖・呼吸障害症侯群
(1) 精液供給における豚繁殖・呼吸障害症侯群(PRRS)ウイルス感染雄豚のクリアランスと豚の新しい人工授精技術の展望
千葉県畜産総合研究センター  中根 崇
 PRRSウイルスの主要な感染経路は接触感染であり、人工授精は、その危険を回避するための有用な手段である。そこで、アメリカのサウスダコタ大学のChristopherらが報告した雄豚の精液供給におけるPRRSウイルス感染雄豚のクリアランスの可能性について紹介する。また、豚の人工授精は、精液を子宮頚管内に注入する方法が一般的だが、最近、子宮角の先端に直接少量の精液を注入するシステムをスペインのムルチア大学のMartinezらが開発した。今回、本法の野外応用の結果、注入精子数を減じても受胎率・産子数に影響せず、精液の利用効率を数十倍に向上できることを確認したのでその概要を報告する。

(2) PRRS陽性農場における衛生対策
三重県北勢家畜保健衛生所  和田尚子
 2001年9月から11月にかけて、母豚160頭飼養一貫経営農場において離乳豚(約25日齢)の死亡率が21%に増加。導入豚検査では2001年4月導入50%、5月導入57%、さらに2001年10月から2002年1月導入では29%から100%の陽性を認め、PRRSウイルスの感染が示唆された。このことから清浄化対策として、(1)離乳舎から肉豚舎までの各ステ-ジのオ-ルインオ-ルアウト実施、(2)導入豚の馴致、(3)石灰等による消毒の徹底を実施したところ、現在離乳豚の死亡率は約7%に減少。また2002年5月にステ-ジ別抗体検査を実施したところ、離乳豚、育成豚で抗体陽性を認めなかった。
薬剤耐性
(1) わが国の家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制
農林水産省動物医薬品検査所   田村 豊
 最近、食用動物へ抗菌性物質を使用することにより薬剤耐性菌が選択され、新たに出現した薬剤耐性菌(耐性遺伝子)が食物連鎖を介して人へ伝播し、人の細菌感染症の治療を困難にしているとの主張が盛んになされるようになった。現時点で、この因果関係の直接的な証明はなされていないが、抗菌性物質を使用すれば薬剤耐性菌を選択することは紛れのない事実であり、各国で薬剤耐性菌対策が真剣に検討されている。この対策の一つとして最も重要視されているのが薬剤耐性モニタリングである。
 わが国では、平成11年度から家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制を確立したことから、その背景を含め概要を紹介する。

(2) 国内における家畜由来細菌の抗菌性物質感受性調査(平成13年度)
農林水産省動物医薬品検査所   小島明美
 我々は、家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング(Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System = JVARM)により、食用動物由来細菌の抗菌性物質に対する感受性調査を実施している。平成7年度より実施されている、製造物責任法(PL法)に基づく病性鑑定材料由来細菌の薬剤感受性調査に加えて、平成11年度からは健康家畜由来の食品媒介性病原細菌(サルモネラ、カンピロバクター)及び薬剤感受性の指標菌(大腸菌、腸球菌)の調査を実施している。今回は、平成13年度のデータを基に、食用に供される健康家畜由来のこれら4菌種について、国内の豚由来細菌を中心とした薬剤感受性の状況を紹介する。

(3) 国内における豚由来多剤耐性サルモネラ
農林水産省動物医薬品検査所   江嵜英剛
 家畜衛生分野における薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)において、家畜の細菌性感染症の原因となるサルモネラについては、健康家畜だけでなく、病性鑑定材料より分離された菌株についても薬剤感受性を調査している。健康な豚、あるいは病鑑材料から分離されるサルモネラは、Typhimurium(ST)が主要血清型であるが、病鑑材料からはSTに加えCholeraesuis(SC)もよく分離される。SCは敗血症のように重篤な症状を起こすことが知られており、その治療には抗菌剤が用いられる。一方、STはSCに比して病原性は低いものの、健康家畜が保菌することから、食品を介してヒトに食中毒を起こす場合がある。通常は下痢のように軽い症状であるが、抵抗力の弱い個体に感染した際は敗血症を起こす場合もあり、その際には抗菌薬による治療が必要となる。これまでの調査の中で多剤耐性を示すサルモネラが見つかっており、今回の発表では、特に豚由来多剤耐性ST及びSCに関する話題を提供する。

(4) Mycoplasma hyorhinisにおける薬剤感受性の変化 -最近の10年-
動物衛生研究所 小林秀樹
 Mycoplasma hyorhinisは若齢豚の鼻腔内に常在する最も一般的なマイコプラズマである。豚の生後1週後位で鼻腔内にコロナイズしたものが肺を経由して血流にのり、全身に転移する。免疫力の乏しい関節等で再度増殖して関節炎を惹起すこともあるが、多発性漿膜炎がM. hyorhinisの特徴的病変である。1~3ヶ月齢の子豚の過半数の肺炎部分から分離される。このマイコプラズマの単独感染での致死率は極めて低く、子豚の成長とともに自家免疫で駆逐されるため、肉豚出荷豚(6-7ヶ月齢)での分離率は数パーセントである。このように病原性は強くはないものの、多くの子豚に浸潤していること、分離が易しいこと、さらに肺炎や下痢対策のため各種薬剤が使用される時期の疾病であることからM. hyorhinis分離株の薬剤感受性試験成績の意義は大きい。また、分離の難しいM. hyopneumoniaeのそれの先駆的な成績となる可能性もある。今回の内容は、1991-93年と2002-03年に分離したM. hyorhinis株の薬剤感受性成績を比較しながら、近年分離株の薬剤耐性状況について報告する。