第73回日本豚病研究会研究集会は終了いたしました。

第73回日本豚病研究会研究集会は下記の要領で開催いたしました。

日本豚病研究会事務局
(動物衛生研究所内)
tel./fax. : 029-838-7745

陽春の候,会員の皆様には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて,春の研究集会を下記の要領で開催しますのでご案内いたします。
尚、開始時間は12:00となっています。

日 時: 平成20年5月16日(金) 12:00~17:00
場 所: 文部科学省研究交流センター
 (つくば市竹園2丁目20-5)
 [交通案内 (研究交流センター)
  ※敷地内北側に駐車場があります]
 tel. 029-851-1331
1. 定期総会 (12:00~12:15)
2. 第15回藤崎優次郎賞授賞式、受賞記念講演 (12:20~13:00)
 
(座長)志賀 明

受賞記念講演
養豚コンサルタント 山下哲生
3. 演 題
(座長)鈴木孝子

千葉県における豚サーコウイルス2型感染症 (13:00~13:25)
千葉県中央家畜保健衛生所 佐藤岳彦
 平成17年秋頃より、県内養豚密集地域において事故率が30%を超える農場が増加している。1農場で病性鑑定を実施した結果、2頭からPCV2 Group1の遺伝子を検出した。Group1は近年北米において甚大な被害が報告されており、浸潤状況を調査するためPCV2が関与し事故率が上昇していると思われた16農場で病性鑑定を実施した。その結果、9農場でGroup1を検出した。病理学的検査において、Group1を検出した個体の肺では、他のPCV2遺伝子型よりも多くのPCV2抗原が認められた。千葉県では、平成20年度から豚の慢性疾病対策を目的とする各種事業を実施予定である。これらの事業や病性鑑定結果からPCV2の対策を検討していきたい。

インゲルバック® サーコフレックスのドイツでの臨床試験 (13:25~13:50)
ベーリンガーインゲルハイムベトメディカジャパン株式会社 ○山口猛、宮下マリ
 豚サーコウイルス2型(PCV2)に対するワクチンであるインゲルバック®サーコフレックスのドイツでの臨床試験成績を報告する。試験を実施した農場はPRRS陽性農場で、試験開始前、呼吸器症状を中心としたPRDCにより多くの被害が見られていた。供試子豚は約3週齢の子豚で、ワクチン群754頭、対照群765頭の合計1,519頭を用いた。その結果、対照群と比べてワクチン群では増体重の改善、一日平均増体重の改善、発育不良豚の発生頻度の減少、臨床症状の減少及び死亡率の低下が見られた。同時にウイルス血症陽性率及び血中ウイルス量の低下が見られた。 以上のことから、インゲルバック®サーコフレックスはウイルス血症を有意に低下させることによりPCV2感染による種々の症状を低減することが分かった。

豚サーコウイルス2型(PCV2)に対する母豚ワクチネーションの概念とその有効性について (13:50~14:15)
メリアルジャパン株式会社 ○徳山桂理、古井丸広行、柴 成宏、松本 哲、杉山美樹、小野恵利子
 離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)の発病機構に関しては未解明の点が多いが、①発病に大量のウイルスが必要、②PCV2は口・鼻・糞などへ排出される、③生後間もない段階から感染が始まる、などといった知見が知られている。また、十分な抗体があればある程度のPCV2感染防御が可能であり、移行抗体にもその効果があることが示されている。しかし、繁殖豚群のPCV2に対する抗体レベルは不安定であることが多いため、上述のすべての点を念頭においた場合、繁殖母豚へのワクチン接種はPCV2制御のツールのひとつとして有効であると思われる。事実、海外や国内で実施された繁殖豚群へのワクチン接種試験では、斃死率および増体に関して大幅で有意な改善が証明されているので、有効性や安全性、利便性の観点からも繁殖母豚ワクチンはPCV2対策に大きく貢献できるものと考えられる。

休憩 (14:15~14:30)
豚サーコウイルス不活化ワクチンの概要 (14:30~14:55)
株式会社インターベット ○種子野 章
 インターベット インターナショナル社(IVI)において開発された、豚サーコウイルス2型(PCV2)感染症に対するワクチンは、PCV2のORF2蛋白を発現する、組替えバキュロウイルスを主成分とする油性アジュバント加不活化サブユニットワクチンである。 日本においても2005年以降にPCV2の感染に起因すると思われる事故率の増加が認められ、予防対策としてのワクチンの開発・上市が強く要望されている。 今回は、IVIが実施したカナダでの野外試験及び第145回日本獣医学会学術集会で発表した安全性と有効性の成績について報告する。

Suvaxyn® PCV2 One Doseの海外における評価成績 (14:55~15:20)
Fort Dodge Animal Health Biological Research & Development 竹村 香里、Zhichang (Zach) Xu、Hsien-Jue (Steve) Chu
フォートダッジ株式会社 ○井上剛光、岸 雅恵
 Fort Dodge Animal Health社の単回投与PCV1 -2型キメラ不活化ワクチン、Suvaxyn® PCV2 One Doseは非病原性PCV1の基盤構造にPCV2の表面構造を組み込んだユニークなキメラ構造により、PCV2の免疫系刺激作用と非病原性PCV1の安全性との組み合わせ効果を発揮する。米国での4週齢子豚による有効性評価試験では、ワクチン投与群は非投与群と比較し、ウイルス血症、リンパ球減少、組織球の置換およびPCV2の免疫組織学的染色において有意な減少が認められた。免疫持続試験では、単回投与から最低4ヶ月はPCV2ウイルス血症の予防およびPCV2によるリンパ球減少の抑制が実証された。1,100頭の豚を使用して実施された米国野外安全性試験では、投与後2週間、局所および全身性反応いずれも全く認められず十分な安全性が確認された。

(座長) 石川弘道、恒光 裕

アメリカにおけるPCV2関連疾病(PCVAD)の状況とワクチンの効果 (15:20~16:20)
イリノイ州養豚専門開業獣医師 Joseph F. Connor
 以前は大きな問題となっていなかったPCV2関連疾病(PCVAD)が、アメリカでは2005年ごろから養豚密集地帯を中心に広がりを見せ、2006年には多くの養豚地帯で大きな被害を見せた。この広がりの原因について疫学的な知見やウイルス株の違いと病原性などについて説明する。さらに、アメリカの生産現場でのPCV2不活化ワクチンの接種の実情やその効果について詳述するとともに、ワクチン接種後の養豚衛生や養豚業界全体への影響を説明する。また、ワクチン接種の効果に影響を与える要素について言及することにより、その効果を最大限に発揮させるための要件を検討する。

総合討論 (16:20~16:45)
研究集会終了後の懇親会は予定していません。
一部タイトルを修正しました。(平成20年4月30日修正)

第72回日本豚病研究会研究集会は終了いたしました。

第72回日本豚病研究会は下記の要領で開催いたしました。

日 時: 平成19年10月15日(月) 13:00~17:00
場 所: 東京大学弥生講堂・一条ホール
 (東京都文京区弥生1-1-1 東京大学農学部内) [http://www.a.u-tokyo.ac.jp/yayoi/]
 Tel. : 03-5841-8205 Fax. : 03-5841-5028
演 題:
(座長)下地善弘

豚丹毒生ワクチンの安全性の再評価
松研薬品工業株式会社 天野健一
化学及血清療法研究所 本田 隆
科学飼料研究所    小川哲夫
北里研究所      瀧川義康
共立製薬株式会社   山崎康人
日生研株式会社    染野修一
京都微生物化学研究所 大石英司
 近年、野外発病例や食肉検査所の分離株の中に豚丹毒生ワクチン(LV) 株と類似の性状を呈する株の存在が報告され、LVの安全性を再評価することが求められた。そこで、その一環として豚を用いたLV 接種試験、野外におけるLV の使用状況と食肉検査所での豚丹毒(SE)の発生状況調査をLVの製造販売を行なっている7所社で協同して実施した。その結果、LV 接種試験では、接種後臨床的な異常を呈する豚は認められず、出荷時の剖検でも主要臓器からSE菌は分離されなかった。野外調査では、LV 接種によりSE による廃棄率を有意に低下しうることが確認された。本成績から、豚丹毒生ワクチンの安全性が再確認された

(座長)岡田宗典

臨床現場から見た南九州における肥育豚の斃死状況について
宮崎県 (有)シガスワインクリニック 志賀 明
 養豚の生産性を左右する肥育豚の斃死率は、近年上昇の一途である。その原因はさまざまだが、特に昨年来斃死率が急増している農場ではサーコウィルス関連疾病(PCVAD)が猛威をふるっていると言われている。
 斃死率増加の原因はPCVADだけではなく、豚繁殖・呼吸障害症候群や豚胸膜肺炎、連鎖球菌症、グレーサー病等による呼吸器複合感染症も多い。一方、腸管感染症は腸管毒血症性大腸菌症による損耗が多く、また、増殖性腸炎やサルモネラ症等も発生しており、これらの複合感染症も見られる。さらに、呼吸器病と腸管感染症との複合感染症も散発しており、対策をより難しくしている。
 今回、南九州における肥育豚の斃死の現状を、筆者の関わる農場と他の臨床獣医師への聞き取り調査による結果を報告する。

鹿児島県における豚病清浄化の取組
鹿児島県農政部畜産課 北野良夫
 本県の繁殖雌成豚の飼養頭数は124,800頭(平成17年度)であるが,肉豚出荷頭数は197万5千頭であり,推定事故率は約24%となる。この数値を平成2年度と比較すると約13ポイント悪化している。この原因は平成2年度に本県に侵入が確認されたオーエスキー病,平成5年度以降侵入が確認された豚流行性下痢症,PRRS,PCV2感染症などの病気の侵入に伴う複合感染症である。事故率上昇は経営の悪化はもとより,食肉処理場など地域経済への影響も甚大である。本県では,豚病清浄化を図り,地域経済の浮揚を狙うため,全国に先駆けて,平成19年4月に家畜保健衛生所を中心とした「豚病清浄化プロジェエクトチーム」を立ち上げた。当該チームでは,清浄化対象農場12戸を選定し,抗体検査やヒネ豚の病性鑑定等による事故原因の究明,飼養衛生管理や食肉検査成績等の実態調査を行っているところであり,今後具体的な清浄化対策を確立し,県下全養豚農家に普及することにしている。

(座長)恒光 裕

わが国における離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)の特徴と診断
農水省農林水産技術会議事務局 川嶌健司
 多くの農場の飼養豚からブタサーコウイルス2型(PCV2)の特異抗体が検出されたことから,PMWSがわが国の豚農場に広く浸潤していると推定された。しかしながら、30%を越える死亡率の発生農場がある一方で、成績のよい農場でも罹患豚は認められ、PMWSについては診断や病原性に関わる未確定な部分が多い。このため、PMWSの診断法や対策法策定に向けて,家畜保健衛生所ならびに動物衛生研究所では,農林水産省動物衛生課所管の診断予防技術向上対策事業を2000年より実施している。本講演では,事業成績から個体ならびに農場でのPMWSの有病率,PMWSの診断およびPCV2の農場内動態と農場の事故率との関連を紹介する。

オーエスキー病の現状とその清浄化に向けて
動物衛生研究所海外病研究施設 山田俊治
 オーエスキー病は、昭和56年に国内ではじめて発生がみられてから今年で26年になる。この間に養豚衛生分野において100余年も悩まされ続けてきた豚コレラを撲滅するなど明るい出来事があったが、近年PRRSやPMWSなど複合的な呼吸器疾患が顕著化してきている。これら疾病の関連病原体はすでに全国の豚に広く浸潤しており、撲滅や清浄化といった根本的な対策以前に発症をコントロールすることが肝要で、適正飼養密度の確保や飼養管理の改善といった基本対策が功を奏することが少なくない。オーエスキー病についてもこうした基本対策やワクチネーションによって発症をコントロールできるものの、浸潤地域と清浄な地域とに分かれている状況では浸潤地域への集中的な対策を講じなければこの膠着した状況が続くか、さらに悪化するものと考えられる。事実、浸潤都県は増加することはあっても減少に転じていない。平成18年、浸潤地域を擁する17都県に比して発生はわずか3県3農場の報告のみで、ヘルペスウイルスに特徴的な潜伏感染の様相が如実に表れている。豚コレラのように感染すれば必ず発症する疾病では発症豚を摘発淘汰することで感染豚やその病原体を同時に絶つこととなるが、オーエスキー病のように感染豚の多くが潜伏感染となる疾病では感染と発症の関係がイコールとならないため発症豚を摘発淘汰するだけでは感染源の根絶とはならない。オーエスキー病の根本的対策は一見健康に見える潜伏感染豚の排除といっても過言ではない。
 ここではオーエスキー病の特徴や現状について今一度整理し、その清浄化を進める上で必要な事項を技術的な観点からお話ししたいと思う。

*研究集会終了後の懇親はを予定していません。

第71回日本豚病研究会研究集会

第71回日本豚病研究会研究集会のお知らせ

日本豚病研究会事務局
(動物衛生研究所内)
tel./fax. : 029-838-7745

陽春の候,会員の皆様には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて,春の研究集会を下記の要領で開催しますのでご案内いたします。

日 時: 平成19年5月21日(月) 13:00~17:00
場 所: 研究交流センター
 (つくば市竹園2丁目20-5)
 [交通案内 (研究交流センター)
  ※交流センターの建物の北側に駐車場があります。]
 tel. 029-851-1331
1.定期総会
2.演 題
(座長)小林秀樹

養豚場におけるサルモネラ汚染状況
動物衛生研究所  木嶋眞人
 豚のサルモネラ感染症は、豚の生産性を阻害するだけでなく、人畜共通感染症として公衆衛生上も重要な疾病である。本症は、1)敗血症型、2)下痢症型、3)無症状型、の3つに大別されるが、無症状型であっても公衆衛生上の重要性は、敗血症型や下痢症型と同様である。そのためデンマークをはじめとして、EU各国では農場のサルモネラ低減化を目指した息の長い取り組みがなされている。しかしながら、わが国では、養豚場の汚染実態さえ明らかにされていないことから、以下の調査を実施した。
 (1) 市販のELISAキットを用いて、1999年から2002年において、27カ所の養豚場で飼育されている821頭の豚の血清を採取して検査した結果、127頭(15.5%)が抗体陽性であり、24農場(88.9%)で飼育されている豚の1頭以上が抗体を保有していた。また、10頭の子豚について、分娩1週後から31週後の間に血清を採取して抗体産生状況を調べた。分娩後1週目に採取した血清中には移行抗体が存在していたが、3週目には消失した。分娩後10週目から15週目頃には感染抗体が徐々に上昇し、27週目には殆どの豚が抗体陽性となった。
 (2) 2003年から2005年にかけて、5,393頭の豚の糞便を培養した結果、169頭から172株のサルモネラを分離した。分離株について特徴的であったのは、型別不能なO4,12:d,-が50株(29.1%)と最も多数を占めていたことである。  以上の成績から、わが国における養豚場のサルモネラ汚染は、EUよりも軽微であると考えられたが、今後更に抗体保有率と排菌率の関係等の基礎的調査を継続する必要があると思われる。

食肉処理場と農場において摘発されている豚サルモネラ症
群馬県中部家畜保健衛生所  高橋泰幸
 食肉処理場(と畜場)において、Salmonella Choleraesuis (SC)による豚サルモネラ症の摘発件数が激増。農場では出荷した豚に臨床症状は認められていない。と畜場で分離された14農場25株と病性鑑定により分離された13農場18株の性状を比較したところ、全ての株が薬剤感受性試験でOTC、SM、SDMXに耐性を示し、50kbの血清型特異病原性プラスミドを保有。薬剤感受性、プラスミドプロファイルおよびXbaⅠとBlnⅠを用いたPFGEのRFLPはほぼ同一で、と畜場由来株と発生農場由来株に違いは認められなかった。と畜場でSCが分離されたA農場133検体と、病性鑑定によりSCが分離された管内4農場203検体の抗体検査をELISA法で実施したところ、A農場では180日齢のみ、4農場ではSCの分離日齢である60~120日齢を中心に抗体陽性豚が認められ、農場における臨床症状発現の有無は感染時期の違いによるものと示唆された。食肉衛生検査所との連携の強化と農場でのSC浸潤状況と感染時期を総合的に判断し、状況に応じた農場の衛生対策を模索している。

健康豚ふん便からのサルモネラの分離と薬剤感受性
麻布大学 獣医学部  福安嗣昭・二川慶子
 1998~99年に2,980頭及び2004~05年に3,791頭の豚ふん便からサルモネラを67株及び126株を分離し、血清型、薬剤感受性、SPV及びDT104について検討した。’98年と’04年の農場別及び個体別の分離率は、いずれとも’04年の方が若干高率であった。分離菌の血清型は18種類で、Typhimuriumが27.5%と最も高率で、Anatum、Infantisの順であった。一方、16薬剤の単一又は複数に対し11種類の血清型菌が耐性で、それらの耐性率はTC系を除き04年の方が有意に高率であった。Typhimurium 53菌株(10農場)のうち27菌株(6農場)がDT104であり、49菌株がSPVを保有した。

(座長)鮫島俊哉

肥育農場で発生した豚サルモネラ症の衛生対策
青森県十和田家畜保健衛生所  児玉能法・二唐 崇
 平成16年9月、豚肥育農場でSalmonella Typhimurium(以下ST)による下痢症発生。発病豚は早期隔離・治療。全豚房のサルモネラ検査を実施し、陰性群は臨床的に健康であれば出荷。陽性群は個体毎に隔離し、陰性になるまで抗生剤投与と検査を反復。オールアウト後、豚舎消毒し次ロットを導入。定期検査を実施し、再度ST保菌豚を確認。初発群と次ロットの分離STの疫学マーカーによる型別が一致。消毒後の豚舎環境におけるST残存を示唆。消毒方法変更、空舎期間延長、生菌剤・有機酸投与及び導入頭数縮少した結果、ST清浄化達成。

一貫生産農場におけるサルモネラ・ティフィミリウムの清浄化事例報告
(有)バリューファーム・コンサルティング  呉 克昌
 筆者は2000年と2005年に、それまで発生経験の無かった二つの大規模農場でサルモネラ・ティフィミリウム(ST)による疾病発生を経験し、清浄化を試み成功したので、その事例を報告する。清浄化のための重要管理点はオールイン・オールアウト飼育と飼育設備の洗浄・消毒の徹底、人や物の出入りの厳重なコントロールだったが、清浄化達成までにはそれぞれ11ヶ月と14ヶ月を要した。その過程でいくつかの失敗も経験したので、具体的な対策を説明するとともに、成功と失敗のポイントを明らかにする。また、ST清浄化対策により肥育成績も大きく改善されたので報告する。

3.APVS2007(中国・武漢)の報告
               志賀 明・石川弘道

第70回日本豚病研究会研究集会

第70回日本豚病研究会研究集会の概要

日 時: 平成18年10月23日(月) 13:00~17:00
場 所: 研究交流センター
 (つくば市竹園2丁目20-5) [交通案内 (研究交流センター)]
 tel. 029-851-1331
演 題:
(座長)小林秀樹

豚のレプトスピラ症の現状と対策
菊池直哉 (酪農学園大学獣医学部)
 レプトスピラ症は病原性レプトスピラの感染により、発熱、出血、黄疸、血色素尿を主徴とする人獣共通感染症である。多くの哺乳動物に感染し、その宿主域は広い。病原性レプトスピラはネズミなどの保菌動物の腎臓に長期にわたって保菌され、尿中に排菌される。尿で汚染された水や土壌などから経皮的あるいは経口的に感染する。
 豚のレプトスピラ症は、不顕性感染にとどまることが多く、発症することは少ないので認知されることが少ない。しかし、妊娠豚が感染した場合は流死産を起こし、経済的損出が大きい。本講演では本症の現状とその対策について述べる。

(座長) 志村亀夫

国内の養豚場におけるIsospora suisの浸潤状況
斉藤康秀 (麻布大学獣医学部寄生虫学研究室)
 Isospora suisは単独感染でも激しい下痢を引き起こす事および感染の中心が哺乳豚にあることから感染が起これば、豚の生育に大きな影響を与えることが考えられる。しかしながら、本原虫に十分な注意が払われているとは言い難い現状に有る。今回は、本原虫の浸潤状況を知るために行った糞便検査の結果および本原虫一般について触れる。

(座長) 志賀 明

九州における最近の養豚事情
岡田宗典 (全国農業協同組合連合会福岡畜産生産事業所)
 九州地方は国内でも有数の豚の産地であり、豚の飼養頭数および飼養戸数はそれぞれ全国の約3割を占めている。一方で1戸あたりの飼養頭数は必ずしも多いとはいえず飼養母豚数が1000頭を超える大規模養豚場が存在する一方で母豚100頭前後の家族経営による小規模な養豚場も多く存在することを示している。
 暑熱対策が必要な気候条件やPRRSに関連したサルモネラ症、グレーサー病、多発性漿膜炎、溶レン菌症の発生あるいは近年の下痢を伴う浮腫病の発生は生産性の低下につながっており、これらの感染症は離乳後から70日齢で発生することから特に子豚の事故率が高く(10~30%)なる傾向が認められる。特に小規模な養豚場では正確な統計はないものの演者の印象では1母豚あたり17頭前後の年間出荷頭数と考えており、生産性の低さに加え、大消費地に遠いという地理的条件による販売面のデメリットもあり経営的にも不安定な状況である。
 生産性の向上のために母豚規模100頭前後を対象にしたスリー・セブンあるいはツー・テンと呼ばれるグループ管理システムそして大規模養豚場を対象にしたソーティングシステムが導入されつつあり、今回これらの生産方式の試みについても紹介したい。

(座長) 津田知幸

豚コレラ撲滅対策の10年
小倉弘明 (消費・安全局動物衛生課)
  平成8年度、5年間の計画で豚コレラ撲滅対策を開始。対策は、清浄性を監視しつつ、ワクチン接種徹底、都道府県ごとの接種中止と進められたが、接種継続を求める強い要望があり、平成12年10月、ワクチンを原則中止、輸入規制強化を行ったが、知事の許可の下での限定的なワクチン接種は可能とした。その後、接種農場も漸減、平成18年3月末にワクチン接種の全面中止を前提とした防疫指針を公表し、予防的なワクチンは全面中止とした。撲滅対策の10年は、永年の家畜衛生関係者の取組みの成果を結実させるものとなる一方で、養豚経営が専業化、多様化する中、関係者のコンセンサス作りが家畜衛生の推進上いかに重要かを再認識する10年ともなった。

*研究集会終了後に懇親会を予定しています。当日受付までお申し出下さい。

平成18年度日本豚病研究会総会及び第69回日本豚病研究会研究集会

平成18年度日本豚病研究会総会
及び 第69回日本豚病研究会研究集会の概要

日 時:平成18年5月26日(金) 13:00~17:00
場 所:東京大学弥生講堂・一条ホール
定期総会
日本豚病研究会第14回藤﨑優次郎賞 授賞式
受賞記念講演
演題
◆◆◆◆◆
(座長)石川弘道、恒光 裕 (演題1-3)

2005年に検索した豚の病気 -主として肺炎について-
久保正法 (動物衛生研究所)
 2005年に病性鑑定を実施した豚143頭に基づいて、豚の病気の実態、特に肺炎について概説する。PCV2感染が疑われたものが最も多く44例であり、次いでPRRSの24例であった。PCV2とPRRSの同時感染は9例に見られた。化膿性髄膜炎が17例、大腸菌症が16例の順であった。単独感染例は少なく、多くは複合感染であった。
 病気を年齢別に見ると、PCV2感染は20日齢以降に見られ、80から140日齢の豚が大部分を占めていた。PRRSは0-20日齢の若齢豚でも見られ、80-100日齢が最も多かった。Actinobacillus pleuropneumoniae(App)感染は、20日齢から140日齢まで見られ、100-140日齢が半数であった。マイコプラズマ肺炎もApp感染と同様な傾向が見られた。連鎖球菌による化膿性髄膜炎は17例に見られ、20-60日齢が過半数を占めていた。

豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスにおける遺伝学的多様性とその意義
吉井雅晃  (動物衛生研究所)
 PRRSウイルスは、遺伝学的に大きく異なる北米型と欧州型に分類されるが、それぞれの遺伝子型においても多様性に富む。感染豚では同一株に対して完全な防御免疫が成立するが、異種株に対する防御は不完全であり、このことが、PRRSの免疫学的な防除を不確定にしていると推測される。最近、欧州型において、遺伝学的系統の異なる株間では交差防御に差があることが示された。我々はO RF5遺伝子に基づく分子系統樹解析から、日本の株は全て北米型に属するものの、多様な系統が存在すること、また、日本において優勢な系統は、アメリカでみられる系統とは異なることを明らかにした。既報の知見とあわせ、本ウイルスの遺伝学的多様性の意義について考察する。

PCV2と関連したPRDCおよびPMWS
Catherine Charreyre and Francois Joisel
 (通訳) 徳山佳理 (メリアル)
 PCV2とPRRSVの実験的同時感染はもっとも重篤な組織病変、PCV2ウイルス価の上昇および多くのPMWS症例を常に誘起した。同時感染した豚におけるPRRSV価の上昇はPCV2の同時感染がPRRSVの増殖を促進することも示唆した。PCV2とPPVの同時感染は高頻度でかつ重篤なPMWS症例と関連してきた。M.hyoがPCV2に関連した肺およびリンパ系病変を悪化させ、PCV2抗原の検出とPMWSの発生を増加させている。
 PRDCで認められる全ての病原体は豚の免疫機構を修飾することによりお互いに直接的相互作用ないし影響を及ぼしている。
 大量の病原性PCV2ウイルスを貪食し、長期にわたり維持できる肺胞マクロファージをPRRSVは標的とし、殺している。M.hyo感染はマクロファージが活性化されM.hyoを破壊するTH1型免疫応答から遠ざけ、非効率的なTH2応答に向けるサイトカインの産生を誘導する。最盛期のPCV2感染は免疫抑制と関連しており、中和抗体応答の産生ないし維持ができなくなる。
 従って、野外では養豚場における豚の免疫状態および様々な病原体に感染する時期が、PCV2の病態および/ないしPRDCに大きく影響する。

(座長) 川島健司(動衛研)

茨城県における豚サイトメガロウイルス病の発生事例
赤上正貴 (茨城県県北家畜保健衛生所)
 豚サイトメガロウイルス(PCMV)病は,移行抗体を持たない新生豚ないし哺乳豚が鼻炎等の呼吸器症状を呈し,鼻粘膜腺上皮細胞に大型好塩基性核内封入体が形成されることから封入体鼻炎とも呼ばれる。
 茨城県では,平成15年1月にSPF導入母豚から生まれた10日齢の哺乳豚で典型的な封入体鼻炎の発生があった。また,平成12年及び平成17年の2度にわたり, PCMVが関与したと思われる好塩基性核内封入体を伴う非化膿性脳炎及び重度脳軟化が神経症状を呈した離乳豚で認められた。ヒトでは,日和見感染あるいは胎児感染によるCMV脳炎が報告されているが,豚ではPCMVによる脳炎に関する報告は無い。
 今回,これら3症例のPCMV病について病理学的に検討したので,その概要を報告する。

第68回 日本豚病研究会研究集会

第68回 日本豚病研究会研究集会の概要

日 時:平成17年10月17日(月) 13:00~17:00
場 所:研究交流センター(つくば市竹園2丁目20-5)

◆◆◆◆◆
子豚下痢便からの病原微生物の検出成績
勝田 賢1)、河本麻理子1)、川嶌健司1)、恒光 裕2)
(1)動衛研・七戸、2)動衛研)
 2001年~2003年に7県16農場から収集した哺乳豚153頭、離乳豚116頭の下痢便を供試した。哺乳豚ではロタウイルス(Rota)が67.3%と最も高率に検出された。離乳豚では、Rota(71.7%)、病原性大腸菌(51.7%)およびサッポロウイルス(56.4%)が高率に検出された。哺乳豚から検出されたRotaの87.5%が単一血清群であったが、離乳豚では、Rota陽性豚の51.6%から複数の血清群が同時に検出された。従来、Rotaによる下痢は2~3週齢以降に好発すると考えられていたが、新生豚においても高率にRota が検出された。離乳豚ではRotaを中心として、病原体が2重~4重に感染している下痢が半数近く認められ、これらが病態を複雑にしていると考えられる。

下痢を伴った子豚の浮腫病
末吉益雄(宮崎大学)
 豚の浮腫病は発生・短期間自然終息から、一旦発生すると長期持続する発生形態の傾向にある。九州の養豚場3戸において、1997年~2003年に30~75日齢の子豚が計約10,000頭死亡した。月間の死亡率は最高25%であった。それらの農場では、事故率は低くなったものの、未だに、終息していない。対策を困難にしている点として、以下のことが挙げられる。(1)抗菌剤の治療投与が難しい。(2)原因菌が多剤耐性化傾向にある。(3)現場での生菌剤の効果判定が難しい。(4)定型的な「浮腫病」ではなく、下痢を主徴とするタイプが現れている。(5)保菌母豚の摘発が難しい。(6)in vivoでの感染実験が難しい。

群馬県におけるオーエスキー病清浄化への取り組み
瀧澤勝敏 (群馬県家畜衛生研究所)
 群馬県では平成3年にオーエスキー病防疫対策要領が制定され、ワクチン接種を柱とした対策に取り組んできた。しかしながら、現在でも清浄化に至った地区はほとんどないのが現状であり、確実に効果が発揮できるワクチン接種プログラムの推進が重要課題となっている。
 近年、県内1地区において農協、自衛防指定獣医師との連携を強化して地区内一体の指導をした結果、ワクチン接種率の向上、プログラムの共通化および野外抗体陽性農場の減少がみられた。この成果を元に平成16年度以降、周辺各地区でのワクチン接種指導を精力的に行っている。これによって養豚農家ではワクチン接種意欲の向上がみられ、地区内で連携して清浄化を目指す気運が高まっている。

PRRSが侵入した種豚場のオールアウトによらない清浄化
細川みえ (山形県庄内家畜保健衛生所)
 平成16年6月、豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)陰性種豚場において陽性豚を摘発。浸潤検査では、繁殖舎(6/258)、育成舎(141/412)陽性。清浄化は、生産フローに沿ったデポピュレーションにより、豚舎ごとの空舎期間を設け、消毒と清浄豚導入を順次行って実施。具体的には (1)繁殖舎の陽性豚とう汰、(2)子豚出荷と肥育豚の早期出荷、(3)育成舎~肥育舎を順に空舎化し消毒、(4)陰性豚の順次導入、(5)清浄性確認検査等を実施。生産フローの最上流である繁殖舎の汚染を最小限に抑え、作業管理動線の厳守により、同年12月に陽性豚の排除を完了。モニタリングの拡充・作業管理マニュアルの改善などにより再発防止に努める。

茨城県における豚サイトメガロウイルス病の発生事例
赤上正貴 (茨城県県北家畜保健衛生所)
 豚サイトメガロウイルス(PCMV)病は,移行抗体を持たない新生豚ないし哺乳豚が鼻炎を主徴とする呼吸器症状を示し,鼻粘膜腺上皮細胞に大型好塩基性核内封入体が認められ,封入体鼻炎とも呼ばれる。
 茨城県では,平成15年1月にSPF導入母豚から生まれた10日齢の哺乳豚で典型的な封入体鼻炎の発生があった。また,平成12年及び平成17年の2度にわたり,神経症状を呈した離乳豚でPCMVが関与したと思われる好塩基性核内封入体を伴う非化膿性脳炎及び重度脳軟化が認められた。
 ヒトでは,日和見感染あるいは胎児感染によるCMV脳炎が報告されているが,豚ではPCMVによる脳炎に関する報告は無い。
 今回,これら3症例のPCMV病について病理学的に検討したので,その概要を報告する。

平成17年度日本豚病研究会総会及び第67回研究集会

平成17年度日本豚病研究会総会
及び 第67回研究集会の概要

日 時:平成17年5月20日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)
定期総会
日本豚病研究会第13回藤崎優次郎賞 授賞式
受賞記念講演
演題
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鹿児島県で確認された豚コレラ疑似患畜事例
北野良夫1)、轟木淳一2)、山下静馬3)
(1)鹿児島県農政部畜産課、2)肝属家畜保健衛生所、3)北薩家畜保健衛生所)
  2004年3月~9月、5事例の「豚コレラ疑似患畜」が確認され、約3,800頭が法に基づき殺処分された。
 発生原因は、分離ウイルスの性状等から未承認豚コレラワクチンの接種に起因するものとされた。一連の発生事例では、動物用医薬品の適正な使用、まん延防止対策、地域ぐるみの自衛防疫の推進、適切な飼養衛生管理の実施などの課題がみられた。また、豚コレラワクチンの使用による抗体陽性豚の存在は、清浄性確認検査など、防疫上大きな障害となった。
 そのため、今後の家畜防疫の推進に資するため、専門家からなる「豚コレラ疑似患畜確認事例検討チーム」を設置し、一連の発生事例について検証を行い、2005年3月、その報告書がとりまとめられた。

インフルエンザウイルスの生態
喜田 宏(北海道大学大学院獣医学研究科)
 家禽、ブタ、ウマそしてヒトの新型インフルエンザは、何れもインフルエンザAウイルス感染症である。家禽、家畜、野生鳥獣とヒトのインフルエンザAウイルスの遺伝子は、そのすべてがカモの腸内ウイルスに由来する。すなわち、インフルエンザは典型的な人獣共通感染症である。したがって、当面、インフルエンザを根絶することはできない。家禽とブタの感染を早期に摘発し、的確に対応することにより、被害を最小限にくい止めるとともに、ヒトの健康と食の安全を守ることがインフルエンザ対策の基本である。ヒトの新型インフルエンザもまた、グローバルサーベイランスを軸とする先回り戦略によって、はじめて克服することができる。

種雌豚の深部腟内電気抵抗性(VER)を指標とした繁殖機能の判定と利用技術
伊東正吾(麻布大学獣医学部内科学第一研究室)
 豚は牛や馬と異なり、卵巣所見を掌握して繁殖機能を判定する臨床的機会は少ない。市販の簡易な機器を利用し、生産現場で利用できる技術としてVER測定による卵巣機能を診断する方法を検討し、発情周期の動態、授精適期や妊娠診断における有用性、ならびに発情異常の鑑定への応用について若干の成果を得ている。
 (1) 発情周期におけるVERは、周排卵期では一時的に低下し、発情開始の前日または2日前に最低値を示すことを認めた。(2) 授精時期の判定では、Day2における受胎率(83.3%)が対照区(85.7%)とほぼ同等であり、他の区(77.8%、 71.4%)は低下する傾向であった。(3) VER値を指標とした妊娠鑑定は、妊娠日齢19日で有意に判定できることを認めた。(4) 鈍性発情もしくは発情徴候不明瞭豚において、VERの測定により卵巣機能を推定できた。また、2頭の母豚で授精時期を判断し授精したところ、2頭とも分娩に至り、産子数は10頭と9頭であった。

第66回日本豚病研究会研究集会

第66回日本豚病研究会研究集会の概要

日 時:平成16年10月15日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)

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食肉衛生検査データの活用
宮川 均(群馬県農業局畜産課)
 県内と畜場における豚の検査頭数は平成15年度は695,823頭(H14:709,632頭)であり、その内、351,313頭(H14:324,495頭(45.7%))がと畜検査結果に基づき、心臓や肝臓等の部分廃棄等の処分が行われている。この食肉衛生検査データを家畜衛生分野にフィードバックして有効に活用することは、衛生管理技術の改善や経営の向上に有効であるが、そのデータの利用は必ずしも十分とは言えない現状であり、どのようなデータが生産農家に有益であるか詳細に検討されていない。食肉検査データは、と殺時点における病変を把握するものであり、それのみで農場全体の衛生状態を把握するには限界がある。肉豚は出荷までの期間が約6か月と比較的短いが、農場内における疾病感染動向や出荷豚全頭の状態を把握できることから、衛生管理を推進する上で有効であり、さらにこの食肉検査データに農場の臨床検査や血清学的検査および細菌検査等を組み合わせることにより一層の指導効果が期待できると考えられる。
 一部の県では食肉検査データを有効に活用する事業等に取り組んでいるが、本県としても、診療獣医師や養豚関係技術者等との連携を強化し、と畜場サーベイランス(内臓検査)を養豚農家指導に有効活用したい。

新潟県内における豚増殖性腸炎の浸潤状況調査成績
中林 大、村山修吾(新潟県中央家畜保健衛生所)
 子豚が発育不良となる豚増殖性腸炎(PPE)慢性型は近年多発傾向にあり、経済的損失が大きい。間接蛍光抗体法(IFA)による抗体検査および糞便からのLawsonia intracellularis(Li)遺伝子検出をNested-PCR法により実施。疫学調査も併せて実施。平成15年現在、32農場中29農場(90.6%)、96頭中74頭(77.1%)が陽性で広く浸潤。遡り調査では昭和60年までは陰性であったが、平成元年に4戸(44.4%)、平成5年に2戸(22.2%)と緩やかに浸潤し、平成10年には8戸(88.8%)とすでに高い陽性率。農場内抗体推移調査では肥育豚では4か月齢で発生農場と未発生農場の区分なく全農場が陽転し、肥育前期の感染が示唆。Li遺伝子検出は病性鑑定豚から検出されたが、感染パターン調査豚84頭からは全例陰性。抗体検査は農場の浸潤調査に、PCRはPPEの病性鑑定に応用できるものと判断。PPEはすでに広く浸潤しており、発症要因が重なるといつでも発病する危険性があり、日常の衛生管理の徹底が重要。

豚増殖性腸炎とその起因菌に関する最近の知見
○長井伸也、小山智洋(日本生物科学研究所)
 豚増殖性腸炎(PPE)は、偏性細胞寄生性細菌Lawsonia intracellularisを原因とし、遠位小腸及び近位大腸の粘膜の過形成による肥厚を特徴とする疾病である。本病は、肥育末期あるいは繁殖候補豚に発生し出血性下痢を伴って急死する急性型(増殖性出血性腸炎:PHEとも呼ばれる)と、離乳期から肥育期にかけ軟便や下痢が持続し増体が低下する慢性型(腸腺腫症:PIAとも呼ばれる)の二つの病型に分類される。本病は世界各国の養豚地帯で発生し、わが国においても90%以上の農場が本菌に汚染されているとされる。L. intracellularisは1995年に命名された新菌種で、その分離は極めて困難であり、未だ人工培地での増殖には成功していない。このため、世界の分離株数は15に達せず、本菌の性状には病原性を含めて不明な点が多い。ここでは最近報告された本菌の細菌学的性状とともに、本病の診断法および海外で実用化されているワクチンについてもあわせて述べたい。

と畜場出荷豚からのインフルエンザウイルス分離状況
御村宗人(埼玉県中央家畜保健衛生所)
 平成14年度及び15年度の2年間、主に冬期(12月~3月)に、県内農場と畜場出荷豚から鼻腔スワブを採取し、インフルエンザウイルスの分離を行った。ウイルス分離はMDCK細胞を用い、常法により実施した。14年度は50農場980検体のうち6農場33検体、15年度は41農場765検体のうち3農場22検体から、A型インフルエンザウイルスが分離された。分離ウイルスはRT-PCR法により、全てH1N2亜型であることが確認された。

ヒトと動物に見つかるE型肝炎ウイルス
池田秀利(動物衛生研究所)
 ヒトのE型肝炎はE型肝炎ウイルス(HEV)の感染によって起こる肝炎である。発展途上国では発生が散発的、時には大流行し、急性ウイルス性肝炎の半数を超す国が多数ある。感染経路はウイルスに汚染された水道、井戸水、食物を介した経口感染が主である。一方、日本を含む先進国においては、ウイルス性肝炎の中でE型肝炎の占める割合は他のA,B, C型肝炎ウイルスに比べて少ない。しかし、先進国で今問題になっているのは、HEVの感染経路について不明なケースが多いこと、一部は食肉を介した人獣共通感染症である可能性を示す事例が増えていることである。色々な動物がこのウイルスに対する抗体を持ち、HEVないし近縁ウイルスに感染しているだろうと考えられている。特に養豚は世界中で抗E型肝炎ウイルス抗体を高濃度、高頻度に持ち、さらに豚から採れるウイルス遺伝子はヒトのウイルスと区別出来ないくらい似ている。このように公衆衛生として問題となっているE型肝炎ウイルスの研究の現状を述べる。

平成16年度日本豚病研究会総会及び第65回研究集会の概要

日 時:平成16年5月21日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)
定期総会
日本豚病研究会第12回藤崎優次郎賞 授賞式
受賞記念講演
演題
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オーエスキー病の清浄化に関する海外事例の紹介
村上洋介(動物衛生研究所 海外病研究部)
 わが国におけるオーエスキー病の対策は、1981年の侵入当初は摘発淘汰を基本とし、全国的な蔓延の兆しを受けた1991年以降は、新防疫対策要領に基づき清浄化という明確な目標を持った施策に仕切直しされて現在に至っている。しかし、北米や欧州の養豚国が次々に清浄化を達成しつつあるのに対して、初発から四半世紀が過ぎようとしているにもかかわらず、わが国では本病の清浄化の目途はみえず、ワクチン接種や侵入防止等の防疫に係る累積経費は巨額に及んでいる。本病の清浄化に必要な技術論はすでに確立されていることから、海外における清浄化事例を紹介し本病の清浄化推進のための話題提供とする。

オーエスキー病対策の今後
小倉弘明(農林水産省消費・安全局衛生管理課)
 本病については、平成3年度、発生状況等に応じて地域を区分し、清浄化を推進する防疫対策要領が制定され、以来、多額の補助金を投入しつつ防疫対策が続けられている。本病は、主要養豚地帯に浸潤しているものの、浸潤の拡大はみられず、また、発生も少数に止まっている。一方で、当初の目的である清浄化への進展の兆しはなく、補助金の面からは、その事業効果が問われている。養豚分野では、豚コレラ撲滅事業を経験し、生産者のコンセンサスつくりの難しさを経験した。豚コレラより技術的に難度が高く、関係者一体となった取組みが必要といわれる本病の清浄化について、今後どのような方向に進むべきか、議論を尽くすべき時がきている。

デンマークにおける成長促進剤としての抗菌性飼料添加物中止の影響について
小林秀樹(動物衛生研究所 臨床疫学研究室)
 わが国においても一部の養豚家が無薬あるいはそれに近い条件で養豚を試みていると聞く。国をあげて無薬(無抗菌剤)養豚を目指しているのが北欧の国々である。スウェーデンやフィンランドなどは1980年代後半から抗菌性成長促進物質(AGP)を中止し、抗菌剤は治療目的としてのみ使用している。デンマークはそれに遅れること10年、1998年から鶏の、1999年からは豚のAGPを中止した。今年で6年目をむかえる。デンマークでの特徴は、AGPを中止するにあたり、その影響を莫大なデータをもって多角的に解析したことである。北欧と日本とは自然環境、養豚環境、国家の規模、畜産業に対する国民意識そしてEUの動物福祉法の遵守など相違点が多い。もし日本でも追従するなら前もって種々の検証が必要であろう。しかしながら、デンマークでの試みから得られた知見はわが国の養豚の将来に参考となるものもあると感じ紹介することにした。

第1回アジア養豚獣医学会参加報告
石川 弘道(サミット動物病院)
 1990年代後半から、口蹄疫、ニパウイルス感染症など、アジア地域を震源とする重要な家畜の伝染病が大きな問題となってきている。最近ではトリインフルエンザが猛威をふるい、深刻な状態が続いている。このように畜産経営を脅かす疾病は国境を関係なく広がっており、地域の伝染性疾病をコントロールするためには、アジアという地域での情報交換が重要との認識の下、アジア養豚獣医学会(APVS)が設立された。第1回APVSは2003年9月21日から23日の3日間、韓国のソウルで開催された。参加国は日本、韓国、タイ、フィリピン、中国、ベトナム、台湾、マレーシア、シンガポールのアジア諸国以外に、アメリカやフランス、ベルギー、ロシアなどヨーロッパ諸国からの参加も得られ、盛大な学会となった。主な発表演題はサーコウイルス、PRRS、PRDC、豚コレラ、口蹄疫、ニパウイルスなど多岐にわたった。なお本学会は隔年で開催されることが決まっており、次回は2005年2月にフィリピンでの開催が、2007年には中国での開催がそれぞれ決定している。

第64回日本豚病研究会研究集会

第64回日本豚病研究会研究集会の概要
日 時:平成15年10月10日(金)13:00~17:00
場 所:財団法人北里研究所 大会議室

豚繁殖・呼吸障害症侯群
(1) 精液供給における豚繁殖・呼吸障害症侯群(PRRS)ウイルス感染雄豚のクリアランスと豚の新しい人工授精技術の展望
千葉県畜産総合研究センター  中根 崇
 PRRSウイルスの主要な感染経路は接触感染であり、人工授精は、その危険を回避するための有用な手段である。そこで、アメリカのサウスダコタ大学のChristopherらが報告した雄豚の精液供給におけるPRRSウイルス感染雄豚のクリアランスの可能性について紹介する。また、豚の人工授精は、精液を子宮頚管内に注入する方法が一般的だが、最近、子宮角の先端に直接少量の精液を注入するシステムをスペインのムルチア大学のMartinezらが開発した。今回、本法の野外応用の結果、注入精子数を減じても受胎率・産子数に影響せず、精液の利用効率を数十倍に向上できることを確認したのでその概要を報告する。

(2) PRRS陽性農場における衛生対策
三重県北勢家畜保健衛生所  和田尚子
 2001年9月から11月にかけて、母豚160頭飼養一貫経営農場において離乳豚(約25日齢)の死亡率が21%に増加。導入豚検査では2001年4月導入50%、5月導入57%、さらに2001年10月から2002年1月導入では29%から100%の陽性を認め、PRRSウイルスの感染が示唆された。このことから清浄化対策として、(1)離乳舎から肉豚舎までの各ステ-ジのオ-ルインオ-ルアウト実施、(2)導入豚の馴致、(3)石灰等による消毒の徹底を実施したところ、現在離乳豚の死亡率は約7%に減少。また2002年5月にステ-ジ別抗体検査を実施したところ、離乳豚、育成豚で抗体陽性を認めなかった。
薬剤耐性
(1) わが国の家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制
農林水産省動物医薬品検査所   田村 豊
 最近、食用動物へ抗菌性物質を使用することにより薬剤耐性菌が選択され、新たに出現した薬剤耐性菌(耐性遺伝子)が食物連鎖を介して人へ伝播し、人の細菌感染症の治療を困難にしているとの主張が盛んになされるようになった。現時点で、この因果関係の直接的な証明はなされていないが、抗菌性物質を使用すれば薬剤耐性菌を選択することは紛れのない事実であり、各国で薬剤耐性菌対策が真剣に検討されている。この対策の一つとして最も重要視されているのが薬剤耐性モニタリングである。
 わが国では、平成11年度から家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制を確立したことから、その背景を含め概要を紹介する。

(2) 国内における家畜由来細菌の抗菌性物質感受性調査(平成13年度)
農林水産省動物医薬品検査所   小島明美
 我々は、家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング(Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System = JVARM)により、食用動物由来細菌の抗菌性物質に対する感受性調査を実施している。平成7年度より実施されている、製造物責任法(PL法)に基づく病性鑑定材料由来細菌の薬剤感受性調査に加えて、平成11年度からは健康家畜由来の食品媒介性病原細菌(サルモネラ、カンピロバクター)及び薬剤感受性の指標菌(大腸菌、腸球菌)の調査を実施している。今回は、平成13年度のデータを基に、食用に供される健康家畜由来のこれら4菌種について、国内の豚由来細菌を中心とした薬剤感受性の状況を紹介する。

(3) 国内における豚由来多剤耐性サルモネラ
農林水産省動物医薬品検査所   江嵜英剛
 家畜衛生分野における薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)において、家畜の細菌性感染症の原因となるサルモネラについては、健康家畜だけでなく、病性鑑定材料より分離された菌株についても薬剤感受性を調査している。健康な豚、あるいは病鑑材料から分離されるサルモネラは、Typhimurium(ST)が主要血清型であるが、病鑑材料からはSTに加えCholeraesuis(SC)もよく分離される。SCは敗血症のように重篤な症状を起こすことが知られており、その治療には抗菌剤が用いられる。一方、STはSCに比して病原性は低いものの、健康家畜が保菌することから、食品を介してヒトに食中毒を起こす場合がある。通常は下痢のように軽い症状であるが、抵抗力の弱い個体に感染した際は敗血症を起こす場合もあり、その際には抗菌薬による治療が必要となる。これまでの調査の中で多剤耐性を示すサルモネラが見つかっており、今回の発表では、特に豚由来多剤耐性ST及びSCに関する話題を提供する。

(4) Mycoplasma hyorhinisにおける薬剤感受性の変化 -最近の10年-
動物衛生研究所 小林秀樹
 Mycoplasma hyorhinisは若齢豚の鼻腔内に常在する最も一般的なマイコプラズマである。豚の生後1週後位で鼻腔内にコロナイズしたものが肺を経由して血流にのり、全身に転移する。免疫力の乏しい関節等で再度増殖して関節炎を惹起すこともあるが、多発性漿膜炎がM. hyorhinisの特徴的病変である。1~3ヶ月齢の子豚の過半数の肺炎部分から分離される。このマイコプラズマの単独感染での致死率は極めて低く、子豚の成長とともに自家免疫で駆逐されるため、肉豚出荷豚(6-7ヶ月齢)での分離率は数パーセントである。このように病原性は強くはないものの、多くの子豚に浸潤していること、分離が易しいこと、さらに肺炎や下痢対策のため各種薬剤が使用される時期の疾病であることからM. hyorhinis分離株の薬剤感受性試験成績の意義は大きい。また、分離の難しいM. hyopneumoniaeのそれの先駆的な成績となる可能性もある。今回の内容は、1991-93年と2002-03年に分離したM. hyorhinis株の薬剤感受性成績を比較しながら、近年分離株の薬剤耐性状況について報告する。