第72回日本豚病研究会は下記の要領で開催いたしました。
日 時: 平成19年10月15日(月) 13:00~17:00
場 所: 東京大学弥生講堂・一条ホール
(東京都文京区弥生1-1-1 東京大学農学部内) [http://www.a.u-tokyo.ac.jp/yayoi/]
Tel. : 03-5841-8205 Fax. : 03-5841-5028
演 題:
(座長)下地善弘
豚丹毒生ワクチンの安全性の再評価
松研薬品工業株式会社 天野健一
化学及血清療法研究所 本田 隆
科学飼料研究所 小川哲夫
北里研究所 瀧川義康
共立製薬株式会社 山崎康人
日生研株式会社 染野修一
京都微生物化学研究所 大石英司
近年、野外発病例や食肉検査所の分離株の中に豚丹毒生ワクチン(LV) 株と類似の性状を呈する株の存在が報告され、LVの安全性を再評価することが求められた。そこで、その一環として豚を用いたLV 接種試験、野外におけるLV の使用状況と食肉検査所での豚丹毒(SE)の発生状況調査をLVの製造販売を行なっている7所社で協同して実施した。その結果、LV 接種試験では、接種後臨床的な異常を呈する豚は認められず、出荷時の剖検でも主要臓器からSE菌は分離されなかった。野外調査では、LV 接種によりSE による廃棄率を有意に低下しうることが確認された。本成績から、豚丹毒生ワクチンの安全性が再確認された
(座長)岡田宗典
臨床現場から見た南九州における肥育豚の斃死状況について
宮崎県 (有)シガスワインクリニック 志賀 明
養豚の生産性を左右する肥育豚の斃死率は、近年上昇の一途である。その原因はさまざまだが、特に昨年来斃死率が急増している農場ではサーコウィルス関連疾病(PCVAD)が猛威をふるっていると言われている。
斃死率増加の原因はPCVADだけではなく、豚繁殖・呼吸障害症候群や豚胸膜肺炎、連鎖球菌症、グレーサー病等による呼吸器複合感染症も多い。一方、腸管感染症は腸管毒血症性大腸菌症による損耗が多く、また、増殖性腸炎やサルモネラ症等も発生しており、これらの複合感染症も見られる。さらに、呼吸器病と腸管感染症との複合感染症も散発しており、対策をより難しくしている。
今回、南九州における肥育豚の斃死の現状を、筆者の関わる農場と他の臨床獣医師への聞き取り調査による結果を報告する。
鹿児島県における豚病清浄化の取組
鹿児島県農政部畜産課 北野良夫
本県の繁殖雌成豚の飼養頭数は124,800頭(平成17年度)であるが,肉豚出荷頭数は197万5千頭であり,推定事故率は約24%となる。この数値を平成2年度と比較すると約13ポイント悪化している。この原因は平成2年度に本県に侵入が確認されたオーエスキー病,平成5年度以降侵入が確認された豚流行性下痢症,PRRS,PCV2感染症などの病気の侵入に伴う複合感染症である。事故率上昇は経営の悪化はもとより,食肉処理場など地域経済への影響も甚大である。本県では,豚病清浄化を図り,地域経済の浮揚を狙うため,全国に先駆けて,平成19年4月に家畜保健衛生所を中心とした「豚病清浄化プロジェエクトチーム」を立ち上げた。当該チームでは,清浄化対象農場12戸を選定し,抗体検査やヒネ豚の病性鑑定等による事故原因の究明,飼養衛生管理や食肉検査成績等の実態調査を行っているところであり,今後具体的な清浄化対策を確立し,県下全養豚農家に普及することにしている。
(座長)恒光 裕
わが国における離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)の特徴と診断
農水省農林水産技術会議事務局 川嶌健司
多くの農場の飼養豚からブタサーコウイルス2型(PCV2)の特異抗体が検出されたことから,PMWSがわが国の豚農場に広く浸潤していると推定された。しかしながら、30%を越える死亡率の発生農場がある一方で、成績のよい農場でも罹患豚は認められ、PMWSについては診断や病原性に関わる未確定な部分が多い。このため、PMWSの診断法や対策法策定に向けて,家畜保健衛生所ならびに動物衛生研究所では,農林水産省動物衛生課所管の診断予防技術向上対策事業を2000年より実施している。本講演では,事業成績から個体ならびに農場でのPMWSの有病率,PMWSの診断およびPCV2の農場内動態と農場の事故率との関連を紹介する。
オーエスキー病の現状とその清浄化に向けて
動物衛生研究所海外病研究施設 山田俊治
オーエスキー病は、昭和56年に国内ではじめて発生がみられてから今年で26年になる。この間に養豚衛生分野において100余年も悩まされ続けてきた豚コレラを撲滅するなど明るい出来事があったが、近年PRRSやPMWSなど複合的な呼吸器疾患が顕著化してきている。これら疾病の関連病原体はすでに全国の豚に広く浸潤しており、撲滅や清浄化といった根本的な対策以前に発症をコントロールすることが肝要で、適正飼養密度の確保や飼養管理の改善といった基本対策が功を奏することが少なくない。オーエスキー病についてもこうした基本対策やワクチネーションによって発症をコントロールできるものの、浸潤地域と清浄な地域とに分かれている状況では浸潤地域への集中的な対策を講じなければこの膠着した状況が続くか、さらに悪化するものと考えられる。事実、浸潤都県は増加することはあっても減少に転じていない。平成18年、浸潤地域を擁する17都県に比して発生はわずか3県3農場の報告のみで、ヘルペスウイルスに特徴的な潜伏感染の様相が如実に表れている。豚コレラのように感染すれば必ず発症する疾病では発症豚を摘発淘汰することで感染豚やその病原体を同時に絶つこととなるが、オーエスキー病のように感染豚の多くが潜伏感染となる疾病では感染と発症の関係がイコールとならないため発症豚を摘発淘汰するだけでは感染源の根絶とはならない。オーエスキー病の根本的対策は一見健康に見える潜伏感染豚の排除といっても過言ではない。
ここではオーエスキー病の特徴や現状について今一度整理し、その清浄化を進める上で必要な事項を技術的な観点からお話ししたいと思う。
*研究集会終了後の懇親はを予定していません。