第64回日本豚病研究会研究集会の概要
日 時:平成15年10月10日(金)13:00~17:00
場 所:財団法人北里研究所 大会議室
豚繁殖・呼吸障害症侯群
(1) 精液供給における豚繁殖・呼吸障害症侯群(PRRS)ウイルス感染雄豚のクリアランスと豚の新しい人工授精技術の展望
千葉県畜産総合研究センター 中根 崇
PRRSウイルスの主要な感染経路は接触感染であり、人工授精は、その危険を回避するための有用な手段である。そこで、アメリカのサウスダコタ大学のChristopherらが報告した雄豚の精液供給におけるPRRSウイルス感染雄豚のクリアランスの可能性について紹介する。また、豚の人工授精は、精液を子宮頚管内に注入する方法が一般的だが、最近、子宮角の先端に直接少量の精液を注入するシステムをスペインのムルチア大学のMartinezらが開発した。今回、本法の野外応用の結果、注入精子数を減じても受胎率・産子数に影響せず、精液の利用効率を数十倍に向上できることを確認したのでその概要を報告する。
(2) PRRS陽性農場における衛生対策
三重県北勢家畜保健衛生所 和田尚子
2001年9月から11月にかけて、母豚160頭飼養一貫経営農場において離乳豚(約25日齢)の死亡率が21%に増加。導入豚検査では2001年4月導入50%、5月導入57%、さらに2001年10月から2002年1月導入では29%から100%の陽性を認め、PRRSウイルスの感染が示唆された。このことから清浄化対策として、(1)離乳舎から肉豚舎までの各ステ-ジのオ-ルインオ-ルアウト実施、(2)導入豚の馴致、(3)石灰等による消毒の徹底を実施したところ、現在離乳豚の死亡率は約7%に減少。また2002年5月にステ-ジ別抗体検査を実施したところ、離乳豚、育成豚で抗体陽性を認めなかった。
薬剤耐性
(1) わが国の家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制
農林水産省動物医薬品検査所 田村 豊
最近、食用動物へ抗菌性物質を使用することにより薬剤耐性菌が選択され、新たに出現した薬剤耐性菌(耐性遺伝子)が食物連鎖を介して人へ伝播し、人の細菌感染症の治療を困難にしているとの主張が盛んになされるようになった。現時点で、この因果関係の直接的な証明はなされていないが、抗菌性物質を使用すれば薬剤耐性菌を選択することは紛れのない事実であり、各国で薬剤耐性菌対策が真剣に検討されている。この対策の一つとして最も重要視されているのが薬剤耐性モニタリングである。
わが国では、平成11年度から家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング体制を確立したことから、その背景を含め概要を紹介する。
(2) 国内における家畜由来細菌の抗菌性物質感受性調査(平成13年度)
農林水産省動物医薬品検査所 小島明美
我々は、家畜衛生分野における薬剤耐性モニタリング(Japanese Veterinary Antimicrobial Resistance Monitoring System = JVARM)により、食用動物由来細菌の抗菌性物質に対する感受性調査を実施している。平成7年度より実施されている、製造物責任法(PL法)に基づく病性鑑定材料由来細菌の薬剤感受性調査に加えて、平成11年度からは健康家畜由来の食品媒介性病原細菌(サルモネラ、カンピロバクター)及び薬剤感受性の指標菌(大腸菌、腸球菌)の調査を実施している。今回は、平成13年度のデータを基に、食用に供される健康家畜由来のこれら4菌種について、国内の豚由来細菌を中心とした薬剤感受性の状況を紹介する。
(3) 国内における豚由来多剤耐性サルモネラ
農林水産省動物医薬品検査所 江嵜英剛
家畜衛生分野における薬剤耐性菌モニタリング(JVARM)において、家畜の細菌性感染症の原因となるサルモネラについては、健康家畜だけでなく、病性鑑定材料より分離された菌株についても薬剤感受性を調査している。健康な豚、あるいは病鑑材料から分離されるサルモネラは、Typhimurium(ST)が主要血清型であるが、病鑑材料からはSTに加えCholeraesuis(SC)もよく分離される。SCは敗血症のように重篤な症状を起こすことが知られており、その治療には抗菌剤が用いられる。一方、STはSCに比して病原性は低いものの、健康家畜が保菌することから、食品を介してヒトに食中毒を起こす場合がある。通常は下痢のように軽い症状であるが、抵抗力の弱い個体に感染した際は敗血症を起こす場合もあり、その際には抗菌薬による治療が必要となる。これまでの調査の中で多剤耐性を示すサルモネラが見つかっており、今回の発表では、特に豚由来多剤耐性ST及びSCに関する話題を提供する。
(4) Mycoplasma hyorhinisにおける薬剤感受性の変化 -最近の10年-
動物衛生研究所 小林秀樹
Mycoplasma hyorhinisは若齢豚の鼻腔内に常在する最も一般的なマイコプラズマである。豚の生後1週後位で鼻腔内にコロナイズしたものが肺を経由して血流にのり、全身に転移する。免疫力の乏しい関節等で再度増殖して関節炎を惹起すこともあるが、多発性漿膜炎がM. hyorhinisの特徴的病変である。1~3ヶ月齢の子豚の過半数の肺炎部分から分離される。このマイコプラズマの単独感染での致死率は極めて低く、子豚の成長とともに自家免疫で駆逐されるため、肉豚出荷豚(6-7ヶ月齢)での分離率は数パーセントである。このように病原性は強くはないものの、多くの子豚に浸潤していること、分離が易しいこと、さらに肺炎や下痢対策のため各種薬剤が使用される時期の疾病であることからM. hyorhinis分離株の薬剤感受性試験成績の意義は大きい。また、分離の難しいM. hyopneumoniaeのそれの先駆的な成績となる可能性もある。今回の内容は、1991-93年と2002-03年に分離したM. hyorhinis株の薬剤感受性成績を比較しながら、近年分離株の薬剤耐性状況について報告する。