平成18年度日本豚病研究会総会
及び 第69回日本豚病研究会研究集会の概要
日 時:平成18年5月26日(金) 13:00~17:00
場 所:東京大学弥生講堂・一条ホール
定期総会
日本豚病研究会第14回藤﨑優次郎賞 授賞式
受賞記念講演
演題
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(座長)石川弘道、恒光 裕 (演題1-3)
2005年に検索した豚の病気 -主として肺炎について-
久保正法 (動物衛生研究所)
2005年に病性鑑定を実施した豚143頭に基づいて、豚の病気の実態、特に肺炎について概説する。PCV2感染が疑われたものが最も多く44例であり、次いでPRRSの24例であった。PCV2とPRRSの同時感染は9例に見られた。化膿性髄膜炎が17例、大腸菌症が16例の順であった。単独感染例は少なく、多くは複合感染であった。
病気を年齢別に見ると、PCV2感染は20日齢以降に見られ、80から140日齢の豚が大部分を占めていた。PRRSは0-20日齢の若齢豚でも見られ、80-100日齢が最も多かった。Actinobacillus pleuropneumoniae(App)感染は、20日齢から140日齢まで見られ、100-140日齢が半数であった。マイコプラズマ肺炎もApp感染と同様な傾向が見られた。連鎖球菌による化膿性髄膜炎は17例に見られ、20-60日齢が過半数を占めていた。
豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスにおける遺伝学的多様性とその意義
吉井雅晃 (動物衛生研究所)
PRRSウイルスは、遺伝学的に大きく異なる北米型と欧州型に分類されるが、それぞれの遺伝子型においても多様性に富む。感染豚では同一株に対して完全な防御免疫が成立するが、異種株に対する防御は不完全であり、このことが、PRRSの免疫学的な防除を不確定にしていると推測される。最近、欧州型において、遺伝学的系統の異なる株間では交差防御に差があることが示された。我々はO RF5遺伝子に基づく分子系統樹解析から、日本の株は全て北米型に属するものの、多様な系統が存在すること、また、日本において優勢な系統は、アメリカでみられる系統とは異なることを明らかにした。既報の知見とあわせ、本ウイルスの遺伝学的多様性の意義について考察する。
PCV2と関連したPRDCおよびPMWS
Catherine Charreyre and Francois Joisel
(通訳) 徳山佳理 (メリアル)
PCV2とPRRSVの実験的同時感染はもっとも重篤な組織病変、PCV2ウイルス価の上昇および多くのPMWS症例を常に誘起した。同時感染した豚におけるPRRSV価の上昇はPCV2の同時感染がPRRSVの増殖を促進することも示唆した。PCV2とPPVの同時感染は高頻度でかつ重篤なPMWS症例と関連してきた。M.hyoがPCV2に関連した肺およびリンパ系病変を悪化させ、PCV2抗原の検出とPMWSの発生を増加させている。
PRDCで認められる全ての病原体は豚の免疫機構を修飾することによりお互いに直接的相互作用ないし影響を及ぼしている。
大量の病原性PCV2ウイルスを貪食し、長期にわたり維持できる肺胞マクロファージをPRRSVは標的とし、殺している。M.hyo感染はマクロファージが活性化されM.hyoを破壊するTH1型免疫応答から遠ざけ、非効率的なTH2応答に向けるサイトカインの産生を誘導する。最盛期のPCV2感染は免疫抑制と関連しており、中和抗体応答の産生ないし維持ができなくなる。
従って、野外では養豚場における豚の免疫状態および様々な病原体に感染する時期が、PCV2の病態および/ないしPRDCに大きく影響する。
(座長) 川島健司(動衛研)
茨城県における豚サイトメガロウイルス病の発生事例
赤上正貴 (茨城県県北家畜保健衛生所)
豚サイトメガロウイルス(PCMV)病は,移行抗体を持たない新生豚ないし哺乳豚が鼻炎等の呼吸器症状を呈し,鼻粘膜腺上皮細胞に大型好塩基性核内封入体が形成されることから封入体鼻炎とも呼ばれる。
茨城県では,平成15年1月にSPF導入母豚から生まれた10日齢の哺乳豚で典型的な封入体鼻炎の発生があった。また,平成12年及び平成17年の2度にわたり, PCMVが関与したと思われる好塩基性核内封入体を伴う非化膿性脳炎及び重度脳軟化が神経症状を呈した離乳豚で認められた。ヒトでは,日和見感染あるいは胎児感染によるCMV脳炎が報告されているが,豚ではPCMVによる脳炎に関する報告は無い。
今回,これら3症例のPCMV病について病理学的に検討したので,その概要を報告する。