第66回日本豚病研究会研究集会の概要
日 時:平成16年10月15日(金) 13:00~17:00
場 所:筑波農林ホール(つくば市農林研究団地内)
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食肉衛生検査データの活用
宮川 均(群馬県農業局畜産課)
県内と畜場における豚の検査頭数は平成15年度は695,823頭(H14:709,632頭)であり、その内、351,313頭(H14:324,495頭(45.7%))がと畜検査結果に基づき、心臓や肝臓等の部分廃棄等の処分が行われている。この食肉衛生検査データを家畜衛生分野にフィードバックして有効に活用することは、衛生管理技術の改善や経営の向上に有効であるが、そのデータの利用は必ずしも十分とは言えない現状であり、どのようなデータが生産農家に有益であるか詳細に検討されていない。食肉検査データは、と殺時点における病変を把握するものであり、それのみで農場全体の衛生状態を把握するには限界がある。肉豚は出荷までの期間が約6か月と比較的短いが、農場内における疾病感染動向や出荷豚全頭の状態を把握できることから、衛生管理を推進する上で有効であり、さらにこの食肉検査データに農場の臨床検査や血清学的検査および細菌検査等を組み合わせることにより一層の指導効果が期待できると考えられる。
一部の県では食肉検査データを有効に活用する事業等に取り組んでいるが、本県としても、診療獣医師や養豚関係技術者等との連携を強化し、と畜場サーベイランス(内臓検査)を養豚農家指導に有効活用したい。
新潟県内における豚増殖性腸炎の浸潤状況調査成績
中林 大、村山修吾(新潟県中央家畜保健衛生所)
子豚が発育不良となる豚増殖性腸炎(PPE)慢性型は近年多発傾向にあり、経済的損失が大きい。間接蛍光抗体法(IFA)による抗体検査および糞便からのLawsonia intracellularis(Li)遺伝子検出をNested-PCR法により実施。疫学調査も併せて実施。平成15年現在、32農場中29農場(90.6%)、96頭中74頭(77.1%)が陽性で広く浸潤。遡り調査では昭和60年までは陰性であったが、平成元年に4戸(44.4%)、平成5年に2戸(22.2%)と緩やかに浸潤し、平成10年には8戸(88.8%)とすでに高い陽性率。農場内抗体推移調査では肥育豚では4か月齢で発生農場と未発生農場の区分なく全農場が陽転し、肥育前期の感染が示唆。Li遺伝子検出は病性鑑定豚から検出されたが、感染パターン調査豚84頭からは全例陰性。抗体検査は農場の浸潤調査に、PCRはPPEの病性鑑定に応用できるものと判断。PPEはすでに広く浸潤しており、発症要因が重なるといつでも発病する危険性があり、日常の衛生管理の徹底が重要。
豚増殖性腸炎とその起因菌に関する最近の知見
○長井伸也、小山智洋(日本生物科学研究所)
豚増殖性腸炎(PPE)は、偏性細胞寄生性細菌Lawsonia intracellularisを原因とし、遠位小腸及び近位大腸の粘膜の過形成による肥厚を特徴とする疾病である。本病は、肥育末期あるいは繁殖候補豚に発生し出血性下痢を伴って急死する急性型(増殖性出血性腸炎:PHEとも呼ばれる)と、離乳期から肥育期にかけ軟便や下痢が持続し増体が低下する慢性型(腸腺腫症:PIAとも呼ばれる)の二つの病型に分類される。本病は世界各国の養豚地帯で発生し、わが国においても90%以上の農場が本菌に汚染されているとされる。L. intracellularisは1995年に命名された新菌種で、その分離は極めて困難であり、未だ人工培地での増殖には成功していない。このため、世界の分離株数は15に達せず、本菌の性状には病原性を含めて不明な点が多い。ここでは最近報告された本菌の細菌学的性状とともに、本病の診断法および海外で実用化されているワクチンについてもあわせて述べたい。
と畜場出荷豚からのインフルエンザウイルス分離状況
御村宗人(埼玉県中央家畜保健衛生所)
平成14年度及び15年度の2年間、主に冬期(12月~3月)に、県内農場と畜場出荷豚から鼻腔スワブを採取し、インフルエンザウイルスの分離を行った。ウイルス分離はMDCK細胞を用い、常法により実施した。14年度は50農場980検体のうち6農場33検体、15年度は41農場765検体のうち3農場22検体から、A型インフルエンザウイルスが分離された。分離ウイルスはRT-PCR法により、全てH1N2亜型であることが確認された。
ヒトと動物に見つかるE型肝炎ウイルス
池田秀利(動物衛生研究所)
ヒトのE型肝炎はE型肝炎ウイルス(HEV)の感染によって起こる肝炎である。発展途上国では発生が散発的、時には大流行し、急性ウイルス性肝炎の半数を超す国が多数ある。感染経路はウイルスに汚染された水道、井戸水、食物を介した経口感染が主である。一方、日本を含む先進国においては、ウイルス性肝炎の中でE型肝炎の占める割合は他のA,B, C型肝炎ウイルスに比べて少ない。しかし、先進国で今問題になっているのは、HEVの感染経路について不明なケースが多いこと、一部は食肉を介した人獣共通感染症である可能性を示す事例が増えていることである。色々な動物がこのウイルスに対する抗体を持ち、HEVないし近縁ウイルスに感染しているだろうと考えられている。特に養豚は世界中で抗E型肝炎ウイルス抗体を高濃度、高頻度に持ち、さらに豚から採れるウイルス遺伝子はヒトのウイルスと区別出来ないくらい似ている。このように公衆衛生として問題となっているE型肝炎ウイルスの研究の現状を述べる。