第89回日本豚病研究会・2016年度日本豚病臨床研究会・平成28年度日本養豚開業獣医師協会 第7回合同集会(事務局:日本豚病臨床研究会)は終了いたしました。

日本豚病研究会、日本豚病臨床研究会、日本養豚開業獣医師協会第7回合同集会(事務局:日本豚病臨床研究会)を下記の要領で開催いたしました。

日時:2016年10月14日(金) 10:00~17:00(受付 9:15~)
場所:明治ホールディングス株式会社 本社ビル 地下1階講堂
〒104-0031 東京都中央区京橋2丁目4号16番
Tel:03-3273-3436

日 程

開 会 (10:00~10:10)

統一テーマ「感染症の撲滅と制御」
(10:10~15:30)

1. 基調講演
座長:小渕裕子(群馬県東部家畜保健衛生所)
伝染病との付き合い方-国内の豚ウイルス病対策- (10:10~11:10)
農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 前所長 津田知幸[豚病研]

2. 感染症の撲滅・制御に向けた取組事例等
座長:渡辺一夫((株)ピグレッツ)
呉 克昌((株)バリューファーム・コンサルティング)

①豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスの最新の情報 (11:10~11:30)
農研機構 動物衛生研究部門 高木道浩[豚病研]

② 畜舎空気中微生物の低減化に対する取り組み (11:30~11:50)
農研機構 動物衛生研究部門 勝田 賢[豚病研]

③ 投薬・早期離乳による豚胸膜肺炎の清浄化事例 (11:50~12:10)
(有)サミットベテリナリーサービス 石川弘道[JASV]

[昼休み(日本豚病研究会 幹事会)12:10~14:00]

Actinobacillus pleuropneumoniae (APP)清浄化に向けた検査プロトコルの検討
(14:00~14:20)
エス・エム・シー(株) 小池郁子[JASV]

⑤ PED清浄化対策により同時改善したPRDC事例 (14:20~14:40)
グローバルピッグファーム(株) 井上貴幸[豚臨研]

⑥ PEDの再発を繰返す二つの養豚団地での獣医療チームの取り組み
(14:40~15:00)
(有)あかばね動物クリニック 伊藤 貢[豚臨研]

3. 総合討論 (15:00~15:30)

[休憩 15:30~15:45]

一般口演
座長:矢原芳博(日清丸紅飼料(株))

① と畜現場から見た豚丹毒の発生要因と予防対策 (15:45~16:05)
富山県食肉検査所 小松美絵[豚病研]

② BioAsseT(バイオアセット)による農場バイオセキュリティ査定の取り組み
(16:05~16:25)
(株)スワイン・エクステンション&コンサルティング 大竹 聡[JASV]

③ 養豚場でのサーモグラフィーの活用方法を考える (16:25~16:45)
(有)あかばね動物クリニック 水上佳大[豚臨研]

閉 会 (16:45~17:00)

<お知らせ>

・ 合同集会当日はこの抄録をご持参いただきますようお願いいたします。

・ 合同集会終了後、懇親会を予定しております。ふるってご参加ください。

<懇親会について>

日時: 2016年10月14日(金) 17:30~19:30

場所: アンジェリオン オ プラザ 東京
東京都中央区京橋3-7-1 相互館110タワー 11階
(合同集会会場のすぐ近くです。http://tokyo.anjelion.jp/)

会費: 5,500円(会費は当日受付で申し受けます。)

参加人数把握のため、参加可能な方は、9月30日(金)までに、下記の連絡先に
メールにてご連絡ください。
なお、当日でも人数に余裕があれば、参加をお受けします。

懇親会参加者連絡先:日本豚病臨床研究会事務局
E-mail:masato.nagasue@meiji.com

講演要旨

統一テーマ「感染症の撲滅と制御」

1. 基調講演
伝染病との付き合い方-国内の豚ウイルス病対策-
農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 前所長 津田知幸
家畜の感染症には口蹄疫のように国内の産業や社会活動に壊滅的な打撃を与えるものから、PRRSのように農場生産性を低下させるようなものまで様々である。国際貿易に影響するような伝染病に対しては、国としての清浄性を維持するための防疫措置が法律によって定められている。一方で、地域や農場の衛生水準を高く維持するためには、個々の単位で防疫や対策が実施される。感染症対策は畜産業の発展や安全な畜産物の安定供給に不可欠で、感染症の特性や現場の状況に応じた戦略が必要である。特にウイルス感染症はウイルスの宿主域や感染部位、感染様式、伝播経路などが多様で対策も一様ではない。ここでは、近年問題となっている豚ウイルス病について、防疫戦略と衛生対策の要点について考察する。

2. 感染症の撲滅・制御に向けた取組事例等
① 豚繁殖・呼吸障害症候群(PRRS)ウイルスの最新の情報
農研機構 動物衛生研究部門 高木道浩
PRRSは世界の養豚産業において大きな経済損害を与える疾病の一つとして知られている。我が国において、PRRSウイルスが初めて分離されてから20年以上が経ち、国内の流行ウイルスにおいては遺伝的多様性が認められ、農場内での常在化する要因となっている。本講演では、我が国でのPRRSウイルスの遺伝学的多様性、最近、異常産を主徴とした事例、あるいはPRRSの関与による事故率の高い事例より分離したウイルスについて解析した結果、また、高病原性PRRSウイルスの現在の状況などを紹介したい。

② 畜舎空気中微生物の低減化に対する取り組み
農研機構 動物衛生研究部門 勝田 賢
家畜の感染症は感染動物や汚染媒介物を介して農場に侵入するほか、エアロゾルを介して空気伝播する可能性もあると考えられている。このため病原体を含む可能性がある畜舎空気環境の制御が農場のバイオセキュリティ上重要な要因の一つとなる。養豚では生産コスト削減による国際競争力向上が求められており、畜舎空気中微生物量低減による病原体の侵入・蔓延防止を通じた疾病対策は今後不可欠になると考えられる。
現在、動物衛生研究部門では、畜舎空気中微生物低減技術の開発を目指し、農研機構・畜産研究部門、宇都宮大学、そして釜石電機製作所と共同研究を実施している。今回、それらの共同研究において見えてきた畜舎空気中微生物低減技術の現状と課題について紹介する。

③ 投薬・早期離乳による豚胸膜肺炎の清浄化事例
(有)サミットベテリナリーサービス 石川弘道
投薬・早期離乳(Medicated Early Weaning:MEW)は授乳中の母豚に投薬すると同時に哺乳中の子豚を早期離乳し、隔離した場所で飼育することで母豚から子豚への病原体の母子感染を防ぎ、特定の疾病を清浄化する手法である。MEWはその後、母豚に投薬せず離乳日齢を早めることで母子感染を分断する分離早期離乳(Segregated Early Weaning:SEW )へと改良された。一方リン酸チルミコシンを用いたActinobacillus pleuronumoniae(App)清浄化についてはSmithらが報告しており、またDuらはリン酸チルミコシンが培養肺胞マクロファージ内のPRRSウイルスの増殖を抑制することを報告している。今回チルミコシンを授乳期の母豚と肥育豚に投薬し、MEWを実践することによりAppおよびPRRSの清浄化に成功した農場の症例を報告する。

Actinobacillus pleuropneumoniae (APP)清浄化に向けた検査プロトコルの検討
エス・エム・シー(株) 小池郁子
APPは、PRRSウイルスやPCV2が日本に侵入する以前から、呼吸器感染症の主要な病原体であり、すでに一世代を越え、農場に根付いてしまっている。そして今なお、肺炎・呼吸器系斃死豚の一番の原因菌であり続けている。
近年、PRRSやPCV2の減少と共にAPPの検出率は減少傾向にあるが、出荷豚でのAPP様病変、血清抗体検査結果などから、農場単位でみると、重篤な発症は減っているが農場から完全に排除出来たケースは非常に少ないと考えられる。
PRRS、MPS等については検査を組み合わせ、科学的な根拠に基づいた方法で、清浄化に取組み、すでに成功している事例も出ている。そこで、弊社でのAPP検出状況の変化を整理しAPP清浄化に向けたサンプリングプロトコールについて検討を行ったので、その経過を報告する。

⑤ PED清浄化対策により同時改善したPRDC事例
グローバルピッグファーム(株) 井上貴幸
過去数年に渡り、PRRS・PCV2の被害を受けていた母豚約250頭一貫経営農場では、離乳期から両ウイルスの発症があり、肥育期には急性肺炎による死亡が多発していた。加えて2014年春にはPEDが侵入。その後1年間に渡って継続的な被害が続いていたが、抜本的な対策を見直すことでそれら疾病の改善に導くことが出来た。具体的には衛生プログラムの見直し、ピッグフローの整理、AI/AOの計画、石灰消毒の方法などの対策が功を奏した。現在は哺乳~出荷までの事故率は9.21%と前年度の半分以下に抑えこめている。PRRSVは肥育後半に限局、PCV2は陰性化、PEDも清浄化(場内にウイルスが存在しない状態)が達成継続されている。また今回の対策は薬品衛生費を前年と比較して50.9%削減するものとなった。

⑥ PEDの再発を繰返す二つの養豚団地での獣医療チームの取り組み
(有)あかばね動物クリニック 伊藤 貢
2014年4月に二つの養豚団地に侵入したPEDは、沈静後も再発生を繰り返している。周りの農場では沈静化しているため、新たな感染源となりうる危険性を秘めており、再発を抑えるため、獣医師と生産者の二つの側面からPED再発抑止のアプローチをしている。
生産者を取り巻く組織を一つにするため、獣医師側は県、家畜保健衛生所、畜産協会、経済連、農協、開業獣医師の意識と情報の共有を図るため獣医療チームを結成、定期的な集まりをもうけながら、対応の方向性を検討。生産者側は、現状の正確な把握、情報知識の平準化、両団地の意識統一の二つの面から、4回目の冬季シーズンに発生させないための対策を進めている。

一般口演

1. と畜現場から見た豚丹毒の発生要因と予防対策
富山県食肉衛生検査所 小松美絵
平成26年度、管内と畜場で検出された豚丹毒菌42株(A~K農場)を用いて、血清型別診断、ワクチン株特異的PCR法、豚丹毒ワクチン接種状況調査を実施し、これらの農場における豚丹毒の発生要因と予防対策について考察した。血清型2型菌のみが分離されたA農場での発生は、ワクチンの未接種が原因と考えられたため、その対策により発生は終息した。生ワクチンを使用した農場において接種肉豚からワクチン株が検出されたが、その発生割合はワクチン未接種A農場の約40分の1であり、また不活化ワクチンのみの接種農場では発生がなかった。豚丹毒発生農場は、と畜検査で「著変なし」の肉豚割合が平均より低く、衛生状態の向上で豚丹毒の発生を抑制できると推測された。

2. BioAsseT(バイオアセット)による農場バイオセキュリティ査定の取り組み
(株)スワイン・エクステンション&コンサルティング 大竹 聡
バイオセキュリティは、養豚生産農場における重要な衛生疾病対策の一つである。科学的根拠に基づき客観的な視点でバイオセキュリティを評価することが、各農場およびその地域全体の衛生レベルを改善するためには必須である。P-JET(PRRS撲滅推進チームJAPAN)は、各農場におけるバイオセキュリティのレベルを詳細に数値化・分析し客観的に査定できるシステムとしてBioAsseT(バイオアセット)を開発した。本発表では、そのBioAsseTを活用した取り組みを紹介する。

3. 養豚場でのサーモグラフィーの活用方法を考える
(有)あかばね動物クリニック 水上佳大
サーモグラフィーは物体から放たれる赤外線を放射量で画像に色分けする装置のことである。機器で映した画像全体、つまり面の温度を知ることができる。広範囲を効率的に測定できるため、異常温度をとらえやすい。以前は極めて高価な機器だったが低価格化とコンパクト化が進んでいる。しかしながら、養豚現場での使用実績は少なく、使用方法は十分確立されていない。環境のモニタリングに視覚的な説得力があり、有用なツールとして今後養豚農場での活用が高まると考える。