日本豚病研究会は春の研究集会を下記要領で開催いたしました。
記
日 時: 平成28年5月27日(金) 13:00~17:00
場 所: 文部科学省研究交流センター(〒305-0032 茨城県つくば市竹園2-20-5)
http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/kouryucenter/
参加方法:
事前登録は不要です。当日会場で受付してください。
参加費 会員;無料 非会員;1,500円
日 程
1. 定期総会 (13:00~13:30)
2. 第20回日本豚病研究会藤﨑優次郎賞受賞記念講演(13:40~14:10)
座長 志賀 明((有)シガスワインクリンニック)
有限会社 豊浦獣医科クリニック
エス・エム・シー株式会社
一般社団法人 日本養豚開業獣医師協会 大井宗孝先生
3. 特別講演(14:15~15:30)
座長 内田郁夫(農研機構動物衛生研究部門)
食用動物由来薬剤耐性菌の現状とリスク管理
酪農学園大学獣医学群食品衛生学 田村豊 先生
[休 憩 15:30~15:45]
4. 農場における薬剤耐性菌の現状(15:45~16:55)
座長 大井宗孝(豊浦獣医科クリニック)
1) JVARM(動物由来薬剤耐性菌モニタリング)の取り組み(15:45~16:05)
川西路子(農林水産省動物医薬品検査所)
2) 豚由来細菌における薬剤耐性菌の疫学(16:05~16:25)
小澤真名緒(農林水産省動物医薬品検査所)
3) 新たな多剤耐性病原性大腸菌系統の出現(16:25~16:55)
楠本正博(農研機構動物衛生研究部門)
5. 閉 会(16:55~17:00)
講演要旨
【特別講演】
食用動物由来薬剤耐性菌の現状とリスク管理
田村 豊(酪農学園大学獣医学群食品衛生学)
食用動物由来薬剤耐性菌の人の健康への影響を最初に指摘したのは、1969年に英国議会に提出したSwan報告である。その後、国際会議でしばしばその対策が議論されているが、基本的には各国に任されていた。しかし、医療における耐性菌問題は極めて深刻な問題になっているため、2015年5月に開催されたWHO総会で薬剤耐性に関する国際的なアクション・プランが採択され、2年以内に各国でアクション・プランを作成することが求められた。その基本的な考えがOne Health approachであり、人と動物と環境(野生動物を含む)を包含した対策の必要性が求められている。
そこで今回はこの問題における国際的な動向を述べ、わが国の食用動物由来薬剤耐性菌の現状とリスク管理対策について豚を中心に紹介したい。
○農場における薬剤耐性菌の現状
1)JVARM(動物由来薬剤耐性菌モニタリング)の取り組み
川西路子(農水省動物医薬品検査所)
JVARM(動物由来薬剤耐性菌モニタリング)は、1999年に農林水産省動物医薬品検査所が全国の家畜保健衛生所等とネットワークを構築し開始された。JVARMは大きく分けて以下の3つの調査(①食用動物における動物用抗菌剤販売高の調査②野外流行株の薬剤耐性調査③食品媒介性病原細菌・指標細菌の薬剤耐性調査から構成されている。現在、これらの調査結果は家畜に使用する抗菌性物質の人の健康と獣医療に対するリスク評価及びリスク管理の基礎資料として活用されている。今後は、今年4月に策定された薬剤耐性対策アクションプランに基づき、畜水産、獣医療等分野におけるサーベイランス体制を確立・強化していく予定である。
2)豚由来細菌における薬剤耐性菌の疫学
小澤真名緒(農水省動物医薬品検査所)
豚の疾病の治療には様々な抗菌剤が使用されるが、その使用が選択圧となって耐性菌の選択、伝播及び定着に影響を与える。また、菌側の要因として、耐性を獲得した菌の適応性(fitness)もこれらに影響すると考えられる。一般的には感受性菌と比較して耐性菌は適応性が低下し、抗菌剤の使用による選択圧がない場合は感受性菌が優勢となり、耐性菌は淘汰されてしまう。しかし、選択圧がなくなっても耐性菌が維持される例が報告されている。選択圧と細菌の適応性は薬剤耐性菌の疫学を考える上で重要なファクターであり、慎重使用の徹底によりできる限り選択圧を下げるとともに、細菌の適応性も考慮して薬剤耐性菌対策を行う必要がある。
3)新たな多剤耐性病原性大腸菌系統の出現
楠本正博(農研機構動物衛生研究部門)
病原性大腸菌は豚の大腸菌症、特に下痢や浮腫病の原因となり、世界的にはO8、O138、O139、O141、O147、O149、O157などがその代表的なO群血清型とされている。しかし国内では十分な調査が行われておらず、豚から分離された病原性大腸菌の全体像については不明な点も多い。本講演では、国内で下痢または浮腫病の豚から分離された病原性大腸菌について、O群血清型、遺伝学的系統、病原性関連遺伝子保有状況、薬剤感受性などを調査した結果と、そこから見えてきた新しい多剤耐性病原性大腸菌系統について報告する。