日本豚病研究会事務局(動物衛生研究部門内)
Tel/Fax: 029-838-7745
e-mail: tonbyou@ml.affrc.go.jp
日本豚病研究会は令和5年度定期総会と第102回研究集会を下記要領で開催しますのでご案内致します。
記
日 時 : 令和 5年 5月18日(木)* 13:00~17:00 *2023年4月11日修正
場 所 :文部科学省研究交流センター(〒305-0032 茨城県つくば市竹園2-20-5)
開催方法 :現地対面開催
参加方法 :登録不要、当日受付のみ
参加費 :会員は無料、非会員は1500円
日程
1.定期総会 (13:00~13:30)
2.第102回研究集会
〇 第24回日本豚病研究会藤﨑優次郎賞 受賞記念講演 (13:30~14:10)
座長:細川 みえ[山形県最上家畜保健衛生所]
豚の常在型損耗性疾病の診断法の確立と普及
川嶌 健司、勝田 賢 (農研機構 動物衛生研究部門)
恒光 裕(Farm Animal Health Support)
[休 憩 14:10~14:20]
〇 一般口演 (14:20~15:20)
座長:宮澤 光太郎[農研機構 動物衛生研究部門]
日本で独自に進化したブタインフルエンザウイルスの現状
峯 淳貴 (農研機構 動物衛生研究部門)
座長:森元 美紗子[日生研株式会社]
豚丹毒に関する近年の知見
下地 善弘(農研機構 動物衛生研究部門)
[休 憩 15:20~15:30]
〇 第100回研究集会記念講演 (15:30~16:50)
座長 勝田 賢 [農研機構 動物衛生研究部門]
家畜防疫史、行政から見た豚病の課題とこれからの対策
小倉 弘明((一社)全国肉用牛振興基金協会専務理事)
日本豚病研究会の歩みと話題となった豚病
津田 知幸 (日本豚病研究会 会長)
〇 閉 会(16:50~17:00)
講演要旨
〇 第24回日本豚病研究会 藤﨑優次郎賞 受賞記念講演
豚の常在型損耗性疾病の診断法の確立と普及
川嶌 健司、勝田 賢 (農研機構 動物衛生研究部門)
恒光 裕(Farm Animal Health Support)
受賞者となるお三方は、家畜衛生試験場七戸研究施設において、東北各県の家畜保健衛生所職員と共同して豚の常在型損耗性疾病、特に、豚の新興感染症として当時世界各地で甚大な被害をもたらした豚サーコウイルス2型(PCV2)感染が関与する豚離乳後多臓器性発育不良症候群(PMWS)について、検査方法の確立と動物試験による病態解明に取り組まれました。確立した検査法を基に農水省の事業による全国規模の調査を実施し、個体診断ならびに農場診断のガイドラインを加味したPMWSの診断基準の構築と普及に取り組まれました。確立した検査法や診断基準は家畜保健衛生所における常在型損耗性疾病の対策や民間企業でのPCV2ワクチンの開発に活用され、国内養豚産業の生産性向上に大きく貢献されました。お三方の研究活動を通じた我が国の豚病対策における功績は極めて大きいことから、第24回藤﨑優次郎賞を授賞されました。本講演ではこれらの取組みについてご紹介いただきます。
〇 一般口演
日本で独自に進化したブタインフルエンザウイルスの現状
峯 淳貴(農研機構 動物衛生研究部門)
ブタインフルエンザはブタの急性呼吸器感染症で、感染したブタでは発熱、せき、くしゃみ、食欲不振などヒトのインフルエンザに似た症状を示し、多くの場合一週間程度で回復する。致死性は低いものの増体率の減少などによる経済的損失を招き、さらに他の呼吸器感染症との重複感染により症状を重篤化させる。我々のグループでは、2015年以降日本でブタインフルエンザサーベイランスによるウイルスの収集を行っており、500株を超えるIAV-Sについて遺伝子を解読している。本発表では、分離されたウイルスについて系統学的な解析を行った結果を示し、日本での現状と今後の展望について情報を共有したい。
豚丹毒に関する近年の知見
下地 善弘(農研機構・動物衛生研究部門)
豚丹毒の原因菌である豚丹毒菌 Erysipelothrix rhusiopathiae はグラム陽性の桿菌でFirmicutes門(ゲノムDNAのGC含量が低いグラム陽性細菌の総称)に属する。この門には、クロストリジウム属菌、連鎖球菌、ブドウ球菌などの病原細菌のほか、ラクトバチルス、ラクトコッカスなどの有用細菌が含まれるが、豚丹毒菌はこれらの菌と異なった以下のような特徴を有する。
1) 他のFirmicutes門菌と系統学的に離れた位置にあり、マイコプラズマに近縁である
2) マイコプラズマと同様に、進化の過程でゲノムサイズが収縮しており、その結果、脂肪酸、ビタミン類、補酵素、アミノ酸等、必須栄養素の合成に関わる遺伝子群が欠失している。
3) 限られたサイズのゲノム上に抗酸化酵素、フォスフォリパーゼ酵素等の食細胞内に寄生する上で有利な酵素遺伝子を極めて多く保有している。
上に示したゲノム情報から、豚丹毒菌は自然界では自律的増殖ができず、増殖に必要な栄養素は寄生する動物に依存すること、また、細胞内寄生菌として食細胞内環境に適応するために進化をしてきたことがわかる。このことは、本菌の病原性と本症の疫学を理解する上で重要である。
豚丹毒菌は宿主域が広く、様々な哺乳類や鳥類から分離される。国内では、野生イノシシのほとんどは本菌に対する抗体を保有している。これまで、豚丹毒を起こすErysipelothrix 属菌種としてE. rhusiopathiae が重要であり、豚の扁桃から高頻度で分離される E. tonsillarum は、実験的には豚をはじめ鶏に病原性を示さないと報告されている。しかし、新しく報告された新菌種については、これまでに我々が得ている成績と近年の国内外での分離状況から、少なくとも3菌種が豚に病原性を示すことが明らかになっている。
本発表では,これらのErysipelothrix 属新菌種について、自然界における分布状況、従来の血清型との関連やワクチン抗原として重要なSpaA蛋白の遺伝子保有状況など、また、豚丹毒菌の細胞内寄生戦略について概説する。
〇 第100回日本豚病研究会研究集会記念講演
-養豚における疾病、防疫、研究の歴史を振り返る―
家畜防疫史、行政から見た豚病の課題とこれからの対策
小倉 弘明((一社)全国肉用牛振興基金協会専務理事)
昭和の終わりから現在まで、オーエスキー病、PRRS、PED、PMWS、そして口蹄疫が国内に侵入、発生し、豚熱も再発した。豚病以外では国民食生活にも影響を与えたBSEや高病原性鳥インフルエンザが発生し、海外ではアフリカ豚熱の発生も拡大している。飼養規模も大型化、人、物、情報の動きもスピードを増して周辺事情は大きく変化しているが、今後の対策の検討の基盤として、各種疾病の侵入、発生、初動の要因、背景を、かつての豚コレラ撲滅対策で成功の条件といわれた、①生産者の組織化・合意作り、②国・地域・生産者段階でのバイオセキュリティ、③届出・診断・防疫体制、④これを担保する支援策といった視点も踏まえて振り返る。
日本豚病研究会の歩みと話題となった豚病
津田知幸(日本豚病研究会 会長 )
日本豚病研究会は昨年に記念すべき第100回研究集会を迎えましたが、COVID-19によって大人数の集会は制限され、研究集会は中止かリモート開催を余儀なくされたため、通常の研究集会として開催されたところです。この度、こうした制限が撤廃されたことから、第102回集会に合わせて改めて100回記念を対面で実施することになりました。そこで、記念講演として豚病研究会のこれまでの歩みと研究集会で話題となった豚病についてお話ししたいと思います。
豚病研究会は農水省家畜衛生試験場(家衛試)で発足した豚病問題懇談会を前身として、家衛試のつくば移転を契機に1982年に研究会として発足しました。初代会長の藤﨑優次郎先生はこの新しい研究会を、既存の会とは異なり、学際的な観点から疾病をとらえることをモットーされてきました。学際的あるいは様々な観点から疾病をとらえることは、常に変化する産業構造の中で疾病対策を進めるうえで欠かせないものです。その観点から、これまでわが国で問題となった豚病についても紹介します。