第80回日本豚病研究会研究集会は終了いたしました。

日本豚病研究会は春の研究集会を下記の要領で開催いたしました。

日 時:平成24年5月25日(金) 13:00~17:00
場 所:文部科学省研究交流センター
 (茨城県つくば市竹園2丁目-20-5)
 [交通案内 (研究交流センター)
  ※敷地内北側に駐車場があります]
 tel. 029-851-1331
 
1. 定期総会 (13:00~13:30)
2. 演 題
東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染の影響13:40~16:00
 座長:恒光 裕・川嶌健司(動物衛生研究所)

①放射線障害の基礎13:40~14:20
宮本 亨 (動物衛生研究所)
 昨年3月11日の東日本大震災とそれに続く福島第一原発の事故により、福島県を中心とした東北関東各県の畜産業はこれまでにないほど甚大な影響を受けている。特に風評被害は、必ずしも科学的説明だけでは解消し得ず、対応に苦慮することが多い。しかし家畜衛生に従事する者として放射線の基礎知識を理解し、生産者、消費者にいつでも説明できることが重要であると考える。そこで今日は、放射線障害に関する基本的事項について説明する。また動物衛生研究所では1950年代後半から、米ソを中心とした大気圏内核実験による放射性降下物(フォールアウト)に伴う家畜(牛、馬)骨中ストロンチウム90濃度変化を約50年にわたり測定してきた。その結果を紹介しながら、放射能が環境や家畜に与える長期的影響についても解説する。

②畜産に対する放射性物質の影響とその対策)14:20~15:00
竹中昭雄(畜産草地研究所)
 東京電力福島第1原子力発電所事故により、大量の放射性物質が大気中に放出され、東北や関東地域では広範囲に放射性物質の土壌汚染が広がった。自給飼料を活用し安全・安心な畜産物を生産するためには、土壌から飼料作物や牧草等への移行、飼料から畜産物への移行についての2段階の放射性物質の移行について、移行の程度を精密に把握するとともに、その低減策を講じる必要がある。本講演では、土壌から牧草や飼料用トウモロコシへの放射性セシウムの移行とその低減策、飼料から牛乳や牛肉への放射性セシウムの移行とその低減策、家畜における生物学的半減期について文献値や最新のデータについて概説し、残された課題と今後の研究方向について報告する。

③福島県における家畜及び畜産物への対応15:00~15:30
坂本秀樹 (福島県農林水産部畜産課)
 【初期対応】 事故直後は20~30km圏内の畜産農家約200 戸について実態調査を実施した結果、11戸を除き飼養を継続していた。 【放射線スクリーニング検査】 計画的避難区域等からの家畜の移動にあたり、牛で約1万1千頭の検査等を実施した結果、基準値を超える個体は確認されなかった。 【警戒区域内の家畜】 5月12日の総理指示に基づく措置を、所有者の同意を得た上で行ってきたところであり、3市村については処理が終了した。これら以外の6市町では、放れ畜の捕獲を最優先とした取り組みを進めている。 【畜産物の緊急時モニタリング検査】 3月19日から定期的に畜産物の検査を実施してきた結果、初日には原乳、7月には牛肉から規制値を超える放射性物質が検出され出荷が制限された。このため、市町村単位での生乳検査や適正飼養管理の再点検及び牛肉の全頭検査体制構築により出荷制限の一部が解除された。

④養豚場における対応と現状15:30~16:00
吉川康宏(グローバルピッグファーム(株)直営・委託農場担当)
 福島県の北西部に位置する直営農場は、川俣町山木屋地区にて母豚1500頭の繁殖農場および種豚・AIセンターを運営していた。東日本大震災による被害が1億円程度発生したことに加えて、東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故による計画的避難地域指定を受けて、在庫1万頭の農場を閉鎖した。農場内の最大空間線量は6μSv/h(自社測定)を超え、食肉への汚染はなかったが、堆肥は規制数値を超える放射能汚染が確認された。農場移転については、自社肥育農場の改造および賃貸豚舎にて飼育継続はできているが、規模は60%まで縮小せざるを得ない状況となった。  その他、農場閉鎖による整備状況および生産量の減少・財務成績・損害賠償・経理処理・各種行政対応の問題点を含めて報告する。

[休憩  16:00~16:10]

一般演題16:10~16:55
 座長:下地善弘(動物衛生研究所)    
                                                                                                                    
①新しい遺伝子型を示す豚丹毒菌が分離された敗血症型豚丹毒の発生事例16:10~16:25
神田 章1、小林千恵2、矢彦沢小百合3、トーホー4、長井伸也4  (1長野県長野家畜保健衛生所、
2長野県上田保健福祉事務所、3長野県松本家畜保健衛生所、4日生研株式会社)
 2009年以降、長野県内で同一性状をもつ強毒タイプの豚丹毒菌が確認された。血清型は1aでSpaA遺伝子高度変異領域の解析では、既報にある野外株の配列とは一致しなかった(SpaA-609G769A型株と仮称)。本株の分離農場における抗体検査では、抗体価が全体的に低く、GA抗体価は肥育末期まで上昇せず、LA抗体価は低値で推移し、両者の抗体価に相関はなかった。病理組織検査では、敗血症型の特徴である腎糸球体毛細血管の硝子様血栓形成が少数に限定され、これまであまり報告がない心筋壊死が多く認められた。これらのことから、本株感染豚では、従来と異なる特徴的な抗体応答パターンを示し、それと関連して重篤な敗血症型豚丹毒を発症するものと考えられた。SpaA-609G769A型株の最近の国内での分離状況についてもあわせて報告したい。

②急性敗血症罹患豚から分離された豚丹毒菌の遺伝学的解析16:25~16:40
白岩和真、下地善弘(動物衛生研究所)
 昨年、spaA 遺伝子の高度変異領域の配列に従来の野外分離株と一致しない豚丹毒菌が多数分離されたという報告がなされた。急性敗血症罹患豚から分離されたこれらの分離株の血清型は1a型であり、spaA遺伝子の609番目の塩基がG (グアニン) (spaA-609Gとする) であることから、この遺伝子産物にアミノ酸置換を伴う変異を伴っていることが明らかになっている。これらの野生株が何らかの選択圧を受けてこの変異を持つ株のみが生き残ったのか、あるいは、ある特定の毒性の強い株から派生した遺伝学的に同一(クローナル)集団の株であるのかは現在不明である。  そこで、国内における野外分離株の疫学的関連性を明らかにするため、当所における病性鑑定依頼株の中から、臨床的に(亜)急性型を示した豚から分離された血清型1a株を選択し、spaA 遺伝子の高度変異領域の配列を決定した。また、パルスフィールドゲル電気泳動による解析に加えて、これまでのゲノム解析で明らかになった一塩基多型 (SNP: Single Nucleotide Polymorphism) が認められる他の染色体領域のシークエンス解析、さらに、病原性への関与が予想される遺伝子の有無について、PCRによる解析を行った。  解析の結果、spaA-609Gは1994年に関東で分離された1株に認められるものの2008年より全国で増加傾向にあり、2011年の分離株ではすべてがこのタイプであった。また、生ワクチン株である小金井65-0.15株との関連性は低いことが示唆された。本発表では、これらの株がクローナルな集団であるのかどうかについて解析した成績を報告する。  * 本研究は一部、農林水産省レギュラトリーサイエンス事業による支援を受けて行った。

③死産子における豚サーコウイルス2型(PCV2)の検出及びPCV2ワクチン投与による効果16:40~16:55
杉山美樹1、古井丸広行1、中西信夫2、塚原隆充3、柴成宏1、小野恵利子1、木下現1
(1メリアル・ジャパン、2京都動物検査センター、3栄養・病理学研究所)
 PCV2は繁殖豚に感染した場合繁殖障害を引き起こすという報告がある。そこで、我々はPCV2陽性の国内2農場(A及びB)について死産子からPCV2の検出を試みPCV2ワクチン繁殖豚における効果について調査した。繁殖雌豚を2群に割り付け、サーコバック?を用法及び用量に従って投与した試験区と無投与の対照区を設定し、産子数、分娩及び産子の状態を観察し、由来産子について離乳頭数を確認した。また、流産及び早産した胎子、分娩時に斃死した産子についてPCV2抗原検査及び病理組織学的検査を実施した。その結果、対照区の死産子のみがPCV2陽性であり、正常産子率や離乳頭数といった繁殖成績指標に関して試験区は対照区より有意に高い結果が得られた。

 
3. 閉 会(16:55~17:00)
       <懇親会のお知らせ> 研究集会終了後、懇親会(当日受付)を予定しております。ふるってご参加ください。
        時 間:17:30~19:30
       場 所:レストラン エスポワール(つくば国際会議場内); 研究集会会場より徒歩 約10分
         〒305-0032 茨城県つくば市竹園2-20-3  TEL:029-850-3266
         http://www.epochal.or.jp/access/index.html
       会 費:5,000円