日本豚病研究会は春の研究集会を下記の要領で開催いたしました。
記
日 時: 平成21年5月22日(金) 13:00~17:00
場 所: 文部科学省研究交流センター
(茨城県つくば市竹園2丁目-20-5)
[交通案内 (研究交流センター)
※敷地内北側に駐車場があります]
tel. 029-851-1331
1. 定期総会 (13:00~13:15)
2. 第16回藤崎優次郎賞授賞式、受賞記念講演 (13:20~14:00)
(座長)下地 善弘
受賞記念講演
河合 透、牛島稔大 ((財)化学及血清療法研究所)
3. 演 題
(座長)志賀 明
南九州における豚サーコウイルス関連疾病(PCVAD)とワクチン使用後の効果 (14:00~14:30)
藤原孝彦 (藤原動物病院)
豚サーコウイルス関連疾病(PCVAD)は全国的に大きな問題になっていた。特に一昨年(2007年)にはその被害は爆発的な広がりとなった。2008年3月にPVC2不活化ワクチンが日本で始めて上市され、被害の集中する地域より使用可能になる。現在では子豚用母豚用あわせ3種類の不活化ワクチンが使用可能となっている。今回養豚密集地域である南九州におけるPCV2ワクチン使用後の現場での反応や生産性の推移を検討したのでその結果を報告する。
農場の病原体にPCV2ワクチンが与えた影響 (14:30~15:00)
金田正彦、岡田宗典、鷺谷敏一、佐々木隆志(全農家畜衛生研究所)
あるPCVAD発生農場でPCV2ワクチン使用前後の斃死豚からの病原体検出状況を調査したところ、使用前はPCV2、サルモネラ、PRRS、マイコプラズマなど多様な病原体が検出されていたが、使用後はPCV2とサルモネラが検出されなくなった。当所の検査結果集計でもPCV2陽性率(血清、肺)、サルモネラ陽性率(肺)は2008年に減少している。このことから、PCV2ワクチンは的確に使用すれば農場のPCV2だけでなくサルモネラなど一部の病原体の動きに影響を与えることが分かった。しかしながら、PRRSやマイコプラズマなど検査結果に大きな変化が認められない病原体もいることから、PCV2ワクチン接種後も衛生対策の重要性は変わらない。
農場でのPCV2ワクチン接種による血清中ウイルス量の変化 (15:00~15:30)
鈴木孝子1、矢光潤2、 島田隆男2、 芦澤尚義3、伊藤尚志3、佐藤岳彦3、平野和則4、恒光裕1 (1動物衛生研究所 ウイルス病研究チーム、2千葉県農業共済連合会 北部家畜診療所、3千葉県中央家畜保健衛生所、4千葉県海匝農林振興センター)
3農場において豚サーコウイルス2型(PCV2)関連疾病(PCVAD)の流行前、流行時および子豚用ワクチン使用時の3時点で発育ステージ別血清を採取し、リアルタイムPCR法でPCV2量を測定した。3時点いずれにおいてもPCV2の感染は確認されたが、60-120日齢の血清中PCV2量はPCVAD流行時で高値を示し、ワクチン接種時には流行前のレベル以下に減少した。離乳後事故率は血清中PCV2量と同様の推移を示し、ワクチン接種時には流行前と同程度まで低下した。次に、PCVAD発生が確認されていない1農場でワクチン接種子豚と非接種子豚を継時的に採血し、血清中PCV2量を比較した。その結果、両群とも120日齢でPCV2量は増加したが、接種群のウイルス量は非接種群に比べて極めて低値を示した。これらの結果から、血清中PCV2量の測定はワクチン効果を確認する一指標になることが明らかとなった。
休憩 (15:30~15:40)
(座長)河合 透、津田知幸
豚丹毒菌ワクチンベクターを利用した経口投与型多価ワクチンの開発 (15:40~15:55)
小川洋介1、大石英司2、佐野陽之2、 宗田吉広1、下地善弘1, 3 ( 1動物衛生研究所、2(株)微生物化学研究所、3岐阜大学大学院連合獣医学研究科)
動物用ワクチンは注射による投与が主流であるが、接種時には1頭ずつ保定しなければならず、多大な労力を必要とする。そこで、最も省力化が期待できる経口投与型の多価ワクチンを開発するため、Mycoplasma hyopneumoniaeの付着因子であるP97蛋白を豚丹毒菌Koganei 65-0.15株の菌体表層に発現させた。この株を人工乳に混ぜSPF豚に給餌後、豚丹毒菌強毒株、ならびに、M. hyopneumoniae強毒株による感染実験を行った。豚丹毒菌攻撃に対して、菌を含まない人工乳を飲ませた対照群は臨床症状を呈したが、免疫群は臨床症状も示さず生存した。さらに、M. hyopneumoniaeによる肺炎の病変形成の割合は、対照群と比較して免疫群では有意に低かった。これらの結果から、P97発現豚丹毒菌の経口投与は、豚丹毒菌および豚マイコプラズマ肺炎に対する防御効果を誘導することが示唆された。
粘膜ワクチンによるブタ浮腫病予防法の開発に向けて (15:55~16:10)
川本恵子1、刈屋晴子1、澤田和敏2、瀧田英司2、松尾健史2、加藤晃2、牧野壮一1 ( 1帯広畜産大学大動物特殊疾病研究センター・食品有害微生物分野、2出光興産株式会社 先進技術研究所 環境・バイオ研究室、3奈良先端科学技術大学院大学)
ブタ浮腫病(ED, edema disease)は、腸管に定着した志賀毒素産生大腸菌(STEC, Shiga toxin-producing Escherichia coli)の産生する外毒素Stx2eにより引き起こされる毒血症である。離乳後1−2週の子豚で発症し、死亡率が高く、再発や発育不良などにより、生産性の低下を招き、経済的損失も少なくない。浮腫病はここ数年全国的に発生が増加しているが、原因菌の多剤耐性化が報告されるなど、抗生物質に替わる予防法または治療法の早期開発が望まれている。本病のように腸管粘膜が感染の場である疾病の予防法としては、粘膜ワクチンが有望視されており、我々は“食べるワクチン”による豚浮腫病の制御を目指している。今回、最近我々が行った粘膜免疫の豚臨床試験の結果について報告し、ブタ浮腫病粘膜ワクチンの有用性と課題について報告する。
豚における口蹄疫 (16:10~16:30)
大橋 誠一 (動物衛生研究所 国際重要伝染病研究チーム)
口蹄疫の疫学を考える上で感染動物の疫学的役割を考えることは重要である。牛と豚を比較した場合、牛は豚に比べ十分の一以下の接種量で感染・発症する。しかし、感染豚の排泄量は牛の千倍以上になるといわれている。日本のような飼育密度の高い養豚形態のところで口蹄疫が発生すると、爆発的な感染が起こり、短期間のうちに感染が拡大する。今回は豚に焦点を当てて口蹄疫について概説する。 口蹄疫の発生は畜産だけの問題ではなく、社会や経済に与える影響も大きい。侵入防止、早期発見体制の強化および早期撲滅の実施が迅速かつ正確に実行できるよう日ごろからの防疫活動のシミュレーションを行うことはいざという時に役立つであろう。
豚における抗ウイルス剤による口蹄疫ウイルスの排泄抑制 (16:30~16:45)
深井克彦1、大橋誠一1、小野里洋行1、森岡一樹1、山添麗子1、吉田和生1、坂本研一1、高橋和美2、古田要介2 (1動物衛生研究所 海外病研究施設、 2富山化学工業株式会社 綜合研究所)
豚が口蹄疫ウイルスに感染した場合、その排泄量は牛の1000~2000倍と報告されている。そのため、ワクチン非接種清浄国において豚で口蹄疫が発生した場合、大流行となる可能性が高い。一方、感染豚のウイルス排泄量を抑制する方法を開発した場合、口蹄疫の防圧に有用であると考えられる。そこで、ワクチンとは異なり即効性が期待できる抗ウイルス剤を用いた口蹄疫ウイルスの排泄抑制法について検討した。in vitroの実験において口蹄疫ウイルスに増殖阻害作用を示した化合物を用いて豚における排泄抑制効果を調べた。本講演においては、2000年のわが国における口蹄疫発生時に分離されたO/JPN/2000株および1997年の台湾における口蹄疫発生時に分離され、豚に対して高い親和性を示すO/Taiwan/97株に対する抗ウイルス剤の排泄抑制効果の概要を報告する。